『アパートの鍵貸します』(1960年)
主演:ジャック・レモン/シャーリー・マクレーン
第33回(1961年)アカデミー賞(作品賞/監督賞/脚本賞/編集賞/美術賞)獲得。ビリー・ワイルダーの絶妙なアイロニーを利かせたストーリー。ジャック・レモンのコミカルな名演技。シャーリー・マクレーンの可憐さ。おかしみとかなしみの緩急濃淡のメリハリが心憎い大人の恋物語『アパートの鍵貸します』の見どころ、感想、レビュー、動画配信情報をご紹介。
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『アパートの鍵貸します』作品情報
監督 | ビリー・ワイルダー |
脚本 | ビリー・ワイルダー / I・A・L・ダイアモンド |
撮影 | ジョセフ・ラシェル |
音楽 | アドルフ・ドイッチ |
美術 | アレクサンドル・トローネル |
出演 | ・C・C・バクスター・・・ジャック・レモン ・フラン・・・シャーリー・マクレーン ・シェルドレイク・・・フレッド・マクマレイ ・ドレイファス医師・・・ジャック・クルーシェン ・ドービッシュ・・・レイ・ウォルストン |
上映時間 | 124分 |
ジャンル | ロマンティック・コメディ |
あらすじ
ニューヨークの保険会社に勤める・C・C・バクスター(ジャック・レモン)は、しがないサラリーマン。
彼は自分のアパートを、上役たちの情事の場所にすすんで提供。
上層部から「おぼえめでたい部下」となることで立身出世を目論んでいた。
バクスターの「アパート貸し」の噂は社内に広まり、シェルドレイク部長(フレッド・マクマレイ)にまで知れ渡る。
だが部長もまた、自らの不倫の密会場所として、彼にアパートの鍵を所望してきた。
好きなときにアパートに帰れない辛い日々を乗り越え、ついに涙ぐましい努力が実って昇進したバクスターの足取りは軽やかだ。
ひそかに恋しているエレベーター嬢フラン(シャーリー・マクレーン)に喜び勇んで昇進の報告をする。
だが、ひょんなことから、部長がアパートに連れ込んでいる愛人こそ、フランその人であることが発覚。
すっかり意気消沈したバクスターの前に、思いがけない事件が起こる・・・
『アパートの鍵貸します』の感想
卓抜したコメディ感覚、洗練された皮肉とウィットがあふれた世界
はじめて『アパートの鍵貸します』を観たのは20代の頃。
昔の映画なのに、「ずいぶんこじゃれているよなぁ……」という印象をもった。
この映画を観てから、「軽妙洒脱」「ウィット」という言葉を目にするたびに、テニスラケットでスパゲティを水切りするジャック・レモンと物憂げな風情のシャーリー・マクレーンの姿が自然に想起されるようになった。
今回、二十数年ぶりに観て、あらためて、「センスと機知の宝箱のような映画だ」と舌を巻いた。
物語の随所に、洗練された皮肉が利いていて、やたらとおかしい。
腹の皮がよじれるほどだ。
なめらかな筋運びのために、ドラマの品位やデリケートさはいささかも損なわれていない。
1950年代~60年代、数多くの喜劇が作られているけれど、『アパートの鍵貸します』における緩急きかせたコメディ感覚は一頭地を抜いている。
小道具の使い方にも、粋(いき)が感じられて、124分が短く感じられるほど楽しい。
哀愁と滑稽が交錯する、バランスの妙
『アパートの鍵貸します』の作品としての成功は、やはり名匠ビリー・ワイルダーの職人業に負うところが大きい。
ナチスが台頭していたドイツからハリウッドに渡ってきたこの人の、「硬骨ぶり」がうかがえる見事な仕事だ。
哀愁と滑稽が交錯する、そのバランスの妙は、ううぅむ……と唸らせるほど心憎い。
いかにも三谷幸喜氏が好みそうな演出が、随所に冴え渡っている。
スリラー、シリアス、サスペンス……数々手掛けてきたビリー・ワイルダーだけに、コメディを作らせても、まろやかな深みがある。
そこには巧みな「隠し味」がきいている。
人の世の機微を丁寧にすくいあげる手並みはあざやかだ。
映画の隅々にまでソフィスティケートが行き届いていて、野暮や無粋につけ入る隙きを与えない。
名監督の、人生に対するシニカルなまなざしが、たとえコメディであっても、ピリッとした緊張感を維持させるのだと思う。
観客のハートをつかんで離さない。
ほどよく地に足の付いた大人のロマンティックコメディ
『アパートの鍵貸します』の魅力は、映画の中の「お芝居」とわかっていても、ほどよい現実感があるところだろう。
観客に夢を見させながらも、地に足が付いている。
興ざめしない程度のリアリティに不足はない。
現実の生々しさは注意深く取り除かれていて、そこそこリアルな悲喜劇の起伏に、観客は胸を躍らせ、興趣をそそられるのだ。
あまりにもリアリティが強く打ち出されると、上質なロマンティックの風合いは削ぎ落とされて、ゴツゴツと荒い手ざわりだけがあとに残ったと思う。
大人のロマンティックコメディとして、『アパートの鍵貸します』の完成度は高い。
デリケートだけどスタイリッシュな作風は、1960年当時の「トレンディドラマ」として、世間の耳目を集め、人々に活力を与えたのではないだろうか。
それにしても、全編に伏流する艶やかな哀愁はどうだろう。
きょうびの恋愛ドラマではついぞお目にかかれそうもない。
スマートな滑稽味と優美なメランコリーがお互いを打ち消し合うことなく、鎮座ましましている。
現実と虚構の並大抵ではないバランス感覚のなせる業だ。
ビリー・ワイルダーの卓越したクラフトマンシップ、そして主演のジャック・レモンとシャーリー・マクレーンの呼吸の合った妙演が、この名作の抜きん出た仕上がりに深く与っている。
ラストシーンは、泣きたくなるような笑いだしたくなるような、、、もうシャッポを脱ぐしかない。
『アパートの鍵貸します』のキャストについて
C・C・バクスター(ジャック・レモン)
当時35歳。
役者としても脂にのっている時期である。
己の類まれな資質と如何ともしがたい人間的瑕疵を知悉した者だけが見せる、闊達自在な演技は素晴らしい。
この人には、留保なく称賛をおくりたくなる。
ビリー・ワイルダーはこのひょうきんな名優に、好きなように演じさせたという。
結果的にそれは適切な選択だった。
ジャック・レモンはこの作品に出演してから、コメディアンから、芸域の広い一流俳優としてその地歩を固めていく。
C・C・バクスターの出世のためにずる賢く立ち回る小心さは、ほんのりとした哀感のともなう共感を誘う。
緩急をきかせたウィットとユーモアの奥深くに、ジャック・レモンが積み上げてきた「役者の屈託」が潜んでいる。
弁舌さわやかだが、まったく嫌味がない。
終始、目まぐるしく変わる表情で饒舌にまくしたてるこの人は、けだし沈黙の尊さも知っているのだろう。
笑いをまぶしたダンディズム━━ ここにジャック・レモンの本領があると思う。
フラン(シャーリー・マクレーン)
ナイーブだが生意気、口を尖らせた表情が抜群にチャーミングな女優である。
シャーリー・マクレーンが演じるのは、不倫相手への愛と葛藤に揺れ動く、エレベーターガール。
ピュアでまっすぐな愛情ゆえに、妻子ある男の不実に、大きな心の痛手を負ってしまう。
この人の傷つきかたには、古式ゆかしき「華」がある。
表情に差す影は、ことのほか美しい。
ときとして黄昏どきの澄みきった冷ややかさを感じさせることもあるけれども、少なくともこの映画のシャーリー・マクレーンに退廃美は感じられない。
どこまでも健全で、翳りのない甘美と情感が際立っている。
フランという役柄では、キュートさを強調させていながら、ふとした瞬間に滴るような艶っぽさが表れて、おもわずドギマギしてしまう。
月並みなセンチメンタリズムに堕することなく、まっすぐ正面から複雑な愛に拮抗していく姿がせつなくも可憐である。
この人の愛らしさには、善男善女も降参するしかない。
『アパートの鍵貸します』から3年後、シャーリー・マクレーンは『あなただけ今晩は』でジャック・レモンとの再共演をはたした。
このふたりの掛け合いを、多くの人々が待望したことだろう。
『あなただけ今晩は』の中でマクレーンは娼婦を演じているが、どこまでもキュートであることに変わりない。
さいごに
『アパートの鍵貸します』は以下にあてはまる方におすすめです。
- ほろにがい大人のラブコメがお好みの方
- ウィットとエスプリのきいた洒脱な芝居が好きな方
- ひと昔前の上品なモノクロ映画が楽しみたい方
ぜひこの機会に、『アパートの鍵貸します』をご覧になってください。
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