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『ドライビング Miss デイジー』※黄昏の日々を丹念に生きる、いのちのかがやき

ドライビング Miss デイジー(1989年)

主演:ジェシカ タンディ/モーガン フリーマン

頑固な老未亡人デイジーと、老黒人専属運転手との4半世紀にわたる心の交流を描く人間ドラマ。最初はぎくしゃくしながらも人種も主従の差も超えて深まっていく友情と絆。そこには温かいヒューマニズムがあふれている。第62回(1990年)アカデミー賞作品賞、主演女優賞(ジェシカ・タンディ)、脚色賞、メイクアップ賞受賞。

ドライビング Miss デイジー
出典:Amazon.com

この映画、こんなあなたにおすすめです!

  • あたたかくてホッとするような、人間同士の交流ドラマが好きな人
  • 「老い」について、しっかり考えを深めたい人
  • 「最近、なんだか生き急いでいるような気がする…」とお考えの人
  • 自分の人生観や価値観を見つめ直したい人

『ドライビング Miss デイジー』作品情報

監督 ブルース・ベレスフォード
脚本 アルフレッド・ウーリー
撮影 ピーター・ジェームズ
音楽 ハンス・ジマー
出演 デイジー・・・ジェシカ・タンディ
・ホーク・・・モーガン・フリーマン
・ブーリー(デイジーの息子)・・・ダン・エイクロイド
・アデラ・・・エスター・ローレ
・フローリン・・・パティ・ルポーン
ジャンル ヒューマンドラマ
上映時間 99分

ストーリー

舞台は1948年のジョージア州アトランタ。元教師の未亡人デイジー・ワサン(ジェシカ・タンディ)は、ある日、自家用車を発進したところ事故を起こす。怪我はなかったものの息子ブーリー(ダン・エイクロイド)は母の衰えを懸念し、お抱え運転手ホーク(モーガン・フリーマン)を雇うことに決める。

頑固で気難しいデイジーは、息子のおせっかいにおかんむり。ホークを受け入れることができず冷淡にあしらう。だが、ホークの誠実であたたかい人柄に触れていくうちに、デイジーは頑なな心を少しずつ開いてゆく……

『ドライビング Miss デイジー』動画配信を見ての感想

まめやか流筆のすさび

馥郁たる黄昏 晴朗なる諦観

『ドライビング Miss デイジー』を見て感じた印象を筆のすさびで表現

上質な絹織物のような、なめらかな枯淡の風合いを感じさせる作品

心温まる素敵な「佳品」「小品」といった作品だ。
20年前、この作品を見ても、ちっとも良さがわからず、ただただ退屈で仕方なかった。やはり齢を重ねて、「生」の刻みを深めないと、受け取ることのできない妙趣や芳醇さというものがあるのだろう。

さしたる個人的達成や社会的貢献をしたわけではなく、わびしく馬齢を重ねてきた僕でさえ、ミス・デイジーと運転手ホークのなにげない言葉や風情が、その丹念な生き方が、心の襞(ひだ)に染み入る。

主役ふたりが見せる枯淡の風合いも、この作品の評価に深く与っていると思う。枯淡といっても、日本の「さび」とは趣を異にするようだ。まるで上質な絹織物のようになめらかな枯淡の風合いと言えばいいだろうか。老境の日々の輝きをこれほどみずみずしく描いた作品は少ないと思う。

また20年後くらいに『ドライビング Miss デイジー』を見たら、今とは違う感慨にひたれるかもしれない。さらに20年しっかり馬齢を重ねてからこの作品を再見したいものだ。さすがに40年後に見ることは……期し難い。

香ばしい黄昏のあたたかみにつつまれる

未亡人デイジーと運転手ホークとの25年間の悲喜こもごもを描いたドラマとはいえ、さして劇的な展開はない。だが、この主役ふたりの歩みを最後の最後まで見届けないわけにはいかなくなる。ひとえにジェシカ・タンディとモーガン・フリーマンの心根のこもった芝居に負うところが大きいだろう。

ところで作品の背景になる20世紀半ばの南部の人種問題について、日本人である僕はほとんど知識の持ち合わせがない。だから正直ピンとこないシーンもあった。それでも、頑固な老婦人と頑固な運転手がぶつかりあい、絆を深めていくなかで、穏当に紡ぎ出す黄昏がなんとも心地よい。

それを言葉にするなら、「馥郁たる黄昏」だ。
その香気は国家や文化や言語や宗教をまたぎ越して伝わってくる。双方とも、度し難い頑固者だからいいのである。老婦人と運転手が一方でも妥協的な人だとしたら、この作品にこれほどまで香ばしい黄昏のあたたかさは生まれることはなかっただろう。

『ドライビング Miss デイジー』のキャストについて

デイジー・ワサン(ジェシカ・タンディ)

撮影当時80歳のこの実力派舞台女優は、清新な感性を衰えさせることなく、はつらつと誇り高き老未亡人をこなしている。「狷介」という言葉がぴったりくるほど、軽々に人と和合しない女性だ。しかるに当初その存在を軽んじていたホークとの絆を深めていく姿につい頬が緩んでしまう。

印象的なシーンが2つある。
ひとつはこの映画のラスト。これは見てのお楽しみ。

もうひとつが、兄弟を誕生日を祝うためにアラバマ州モービルに向かう途中、車をとめて、ふたりが食事をとるシーン。1888年、デイジーがはじめてモービルを訪れた体験を回想しホークに語る。12歳のデイジーは生まれて初めて汽車に乗り、初めて海を見て、ひたした指をなめてその塩辛さを味わう。

しばし追憶に捧げている彼女の表情が、なんとも可憐で慈愛に満ちている。心なしか若返ったようにさえ見えた。ハートはすっかりうら若き乙女なのだ。いかにも感傷に流されてしまうところだが、ジェシカ・タンディは透徹したみずみずしい抒情を謳いあげて、見る者の心を心地よく解きほぐしてしまう。この演技を見て、『ドライビング Miss デイジー』を個人的な名作殿堂入りにしてしまった。

運転手ホーク(モーガン・フリーマン)

豊かな孤愁をたたえた、腰の定まった円熟の演技を見せている。それでいて、親密でゆくもりのあるユーモアを忘れてはいない。ときおり見せる、「ウヒョヒョヒョ」という笑い声も、並の俳優なら下卑た印象になるだろうが、この人が演ると香ばしき愛嬌になる。

屈託のない明るさが取り柄のホークだが、その裏には、「生」の辛酸や辛苦を潜り抜けた刻みの深さを感じさせる。ミスデイジーに勝るとも劣らない頑固さに説得力があるのは、その刻みの深さゆえだろう。

ホークという人物の造形のリアルさは、ただの「劫を経た善良なおじさん」で終わらせていないところにあると思う。品位もある。威厳もある。だがそれらを貶めぬ程度の老獪さも併せ持っている。闇を抱えながらも、中庸に寄せていけるだけの節度と良心と知性の持ち主であることは怪しむに足りない。

いつも陽気なホークには、晴朗なる諦観がうかがえる。とくに物語後半の彼は、「好々爺」のお手本のような風情である。老いに抗うような悪あがきはいささかも感じられない。「以て瞑すべしだよ、ウヒョヒョヒョ」と、老いゆく日々を怠りなくまっとうしているかのようだ。こういう人にこそ命の崇高なかがやきが感じられる。いぶし銀の眩しさで。

まめやかコラム

【コラム】おおらかであたたかい「円熟の聡明さ」

『ドライビング Miss デイジー』で描かれているのは、主人であるデイジーと運転手のホークの25年の軌跡です。一徹な性格のデイジーと心を通わせるまでのホークの苦労は並大抵なものではありません。どこまでも粘り強く、快活にデイジーに寄り添っていくホークのおおらかな人柄にほろりとくる人は少なくないでしょう。

劇中のエピソードがうかがい知ることができますが、ホークは教育機会に恵まれませんでした。にもかかわらず、ホークはEQ(感情を効果的に制御できる能力)がきわめて高い聡明な人物です。円熟した人間が持つ、あたたかい聡明さと言っていいかもしれない。

そんな「円熟の聡明さ」には2つの特質があるように思います。


【1】結論を先に急がない穏健さ

ホークは気難しいデイジーをろう絡する気もなく、じっくり腰を据えた穏健な姿勢で関係を構築していきます。結論や結果を先に急がないのです。こういう態度は今の時代、見直されてもいいのではないでしょうか?

とくにビジネスの世界では、何よりもまず結論が求められがちです。しかし、スピーディーに結論を求めあうことで、否応なく「切り捨てられるものごと」に目を向けないというのはいかがなものでしょう。明快な結論を出すために、安易にものごとを決めつける風潮はいささか怖い。

仕事にせよ人間関係にせよ、「結論を急いではいけない局面」があります。聡明な人ほど、「結論を急いではいけない局面」を穏健な態度で見定めるのです。


【2】解決を先送りしない律儀さ

ホークは、結論を先に急がないからといって、問題解決をおろそかにしているわけではありません。また今やるべきことを先送りするような怠慢さや狡知さもありません。彼は律儀な精神と高い観点をもって、自らの職分を果たしているのです。

『ドライビング Miss デイジー』の中で、ホークは古くなった鮭缶を持ち帰り、翌日新しい鮭缶を買ってきたことをデイジーに報告します。しかし、デイジーはホークが鮭缶を盗んだものと早合点していたのでした。ホークは些細なことにも妥協せず、今日やるべき仕事を明日に先送りすることを潔しとしません。ひとつひとつの仕事をまめやかにこなし、しかるべき報告も怠らない。このエピソードだけでも彼が信頼のおける聡明な人物であることがわかります。


結論を先に急がない穏健さと、解決を先送りしない律儀さを持つことで、上擦り気味な人生にゆとりや落ち着きを取り戻せるのではないでしょうか。僕も「円熟の聡明さ」を目指しています。まだまだ青二才ですが。。。

ちゃお!!

それではまた