『天使にラブ・ソングを…』(1992年)
主演:ウーピー・ゴールドバーグ
ウーピー・ゴールドバーグ主演のミュージック・コメディの傑作。ひょんなことからクラブ歌手が修道院の尼僧になって聖歌隊を指揮することに。多彩で個性的なシスターたちのゴスペル・パフォーマンスは見る者を優しく包み込むような慈愛に満ちている。そんな『天使にラブ・ソングを…』の魅力をご紹介。
- ノリノリな音楽映画を見て元気になりたい人
- ハッピーな余韻に浸れる映画を見たい人
- 精緻なプロットや奥深いストーリーよりも単純明快なストーリーが好きな人
- 仕事やプライベートで差別化できずに悩んでいる人
『天使にラブ・ソングを…』感想
何度も見ても飽きない!高揚させてしっかり酔わせる音楽映画!
この30年近く、何度も繰り返して鑑賞してはそのたびに幸福感に満たされる、ものすごい生命力をたたえた映画です。まったく飽きないんですよね、この映画の屈託のなさが。風通しの良さが。
とにかく音楽が素晴らしい。シスターたちの人柄がしっかり乗った明朗な歌声が印象深いものがあります。主役のウーピー・ゴールドバーグだけでなく、愉快な脇役シスターたちのパフォーマンスも粒立っていて、観客をほっこりリラックスさせるツボを心得ているようです。とりわけ、ゴスペルに編曲された『I Will Follow Him』が期待に違わずしっかり高揚させて酔わせてくれる。
万国共通の「音楽の楽しさ」を高らかに謳いあげているという意味で、『天使にラブ・ソングを…』は良質で骨太なミュージカルといってもいいかもしれません。
ドラマとしても秀逸
ストーリーも単純にして明快。家族みんなで楽しめること請け合いです。良い意味でケレン味もたっぷり。「大向こうを唸らせてやろう!」という制作側の野心がここまであけすけだとなんだか すがすがしい。クオリティがしっかり追いついているので、有無を言わせない説得力がそなわっています。人間ドラマとしても秀逸です。
尼僧になったデロリスが、修道院院長に反発しながら、修道院のシスターたちに影響を及ぼし、やがて環境を変えていく。そして主人公デロリスもまた、シスターたちに感化されて、善性を引き出されているようです。強烈な影響を与える者は、同時に、周囲からも影響を受ける━━ その人間模様の描き方があたたかくやさしい。
物語の終盤、ギャングにつかまったデロリスの表情が神々しいほどの慈愛をたたえています。あの汚れ多き俗世のど真ん中で生きていたクラブ歌手の表情とはとても思えません。
懐の深さ…汲めども尽きせぬ生命力…あふれてこぼれそうな歌心
デロリスの存在感はこってり濃厚だけど、ストーリーにどんどん引き込まれていくうちに、悪びれる様子もなく「聖」と「俗」を行き来する彼女にすっかり魅了されているはず。
最初は「ちょっと味が濃すぎるかも……」と思いつつも食べているうちに、ぐんぐんイケて、おつゆまで全部飲み干して、きれいに平らげてしまった━━ そんな、極上のとんこつラーメンのような映画です。緊張と緩和、笑いあり涙ありの音楽と演技でお腹いっぱい楽しんだあとは、あなたも心からなる拍手喝采を送りたくなるでしょう。
この映画には、すべてを肯定し許すような懐の深さが感じられます。突き抜けるようにハッピーな娯楽作品だけどけっして大量消費コンテンツではありません。汲めども尽きせぬ生命力と、あふれてこぼれそうな歌心に支えられた芸術作品でもあります。だから、見終わったあとの満足感の中に、宗教的な安らぎを見いだせなくもないのです。
『天使にラブ・ソングを…』のキャストについて
デロリス/シスター・クラレンス(ウーピー・ゴールドバーグ)
ときに粗野になるけれど、溢れんばかりの生命力がこの女優の持ち味といえましょう。
人間的、あまりに人間的な歌心をもったデロリスを茶目っ気たっぷりに演じています。 どんなにあっさり薄味が好みな人でも、この人の「こってり濃厚」な魅力だけは大歓迎という人は少なくありません。ときに手が付けられないほどハスッパになるけど、ハスッパになるその身振りにそこはかとない気品が感じられます。
ウーピー・ゴールドバーグは『ゴースト/ニューヨークの幻』でオスカーを受賞して、女優として一番脂に乗っているときです。『天使にラブ・ソングを…』と続編の出演によって、この人の芸は練達の域に達したのでないでしょうか。『天使にラブ・ソングを…』を通して、ウーピー・ゴールドバーグは映画以外のあらゆるジャンルにも影響を与えているようです。ファンが多いのもうなずけます。
修道院院長(マギー・スミス)
気高く凛としたなかにも、人間味を感じさせる修道院院長を演じています。芸を枯らすことなく円熟に達しているマギー・スミス。名優とはこういう人のことを言うのだなあと。最初は型破りなデロリスを到底受け入れることができませんが、固くこわばった気持ちがだんだん氷解していく内面表現にはハっとさせられます。老獪になることを拒絶し、「潔さこそ身上」という女性は、年齢関係なく素敵ですね。
シスター・パトリック(キャシー・ナジミー)
にこにこしている陽気なシスターをはちきれんばかりの躍動感をもって演じています。なんだかいつも目をくりくりさせて、ごきげんに豊満なボディをリズミカルに右に左に揺らしている。このひとを見てるだけで、小春日和の午後の芝生に寝そべっているときのような気持ちになってくるのです。こういう人が職場にひとりでもいると、ものすごく心が和みますよね。デロリスとの相性も申し分なし。この映画にラディアントな輝きを与えている人です。
シスター・ロバート(ウェンディ・マッケナ)
可憐で繊細ななかにも「一歩たりとも譲らない」芯の強さを感じさせるシスターを矩(のり)を越えず好演しています。それにつけてもこの慎み深さよ。日本でもウェンディ・マッケナファンは多いのではないでしょうか。たとえこの人の歌唱が「アンドレア・ロビンソン」という別の歌手による吹き替えでも、その魅力はいささかも損なわれることはありません。ウェンディ・マッケナのかわいらしい容姿とあいまって、よりソノリティが際立っているといいましょうか。シスター・パトリック同様、彼女もまた『天使にラブ・ソングを…』に華を添える欠かせない存在です。
『天使にラブ・ソングを…』作品情報
監督 | エミール・アルドリーノ |
脚本 | ジョセフ・ハワード |
撮影 | アダム・グリーンバーグ |
音楽 | マーク・シェイマン |
出演 | ・デロリス(シスター・クラレンス)……ウーピー・ゴールドバーグ ・スター・ロバート……ウェンディ・マッケナ ・シスター・パトリック……キャシー・ナジミー ・修道院院長……マギー・スミス ・ヴィンス……ハーベイ・カイテル |
ジャンル | ミュージカル/コメディ |
ストーリー
デロリス(ウーピー・ゴールドバーグ)はネバダ州リノでクラブシンガーとして活躍している。彼女は愛人ヴィンス(ハーベイ・カイテル)の殺人現場を目撃し、命を狙われるはめに。警察のすすめでデロリスは修道院に身を隠す。不承不承シスターとしての新生活を始めるが、修道院院長(マギー・スミス)とは反りが合わない。そんなある日、デロリスが聖歌隊のリーダーに任命されて物語は思わぬ展開に……。
型破りなシスターが教えてくれる「ポジショニング戦略」
『天使にラブ・ソングを…』のハッピーでごきげんな内容にはそぐわないかもしれませんが、この映画を何度も見ているうちに気づいたことがあります。
「これってビジネス、マーケティングついての示唆に富んだストーリーだなあ」と。
ウーピー・ゴールドバーグ演じるデロリスの本業はクラブ歌手。彼女が属する「文脈」はナイトクラブです。ところが、ギャングの追手から逃げるべく聖キャサリン修道院に身を隠すことになり、本来の「文脈」から隔たること遠い「文脈」に属することになります。
「文脈」が変われば、不思議な化学反応が起こる。シスターになったデロリスは、聖歌をゴスペルテイストに変えたり、60年代ポップを取り入れたりと、ずいぶん愉快な横紙破りをしてくれます。クラブ歌手が、”修道院の尼僧”という、普通ならありえない「文脈」にポジションを取ることで、突拍子もない輝きを放つのです。
デロリスはリノのナイトクラブに身を置いているとき以上に、周囲を照らす光源になっている。これはまさにマーケティングで言うところの「ポジショニング」に通じるでしょう。競合と差別化するためにユニークな位置取りを考えるのが「ポジショニング」です。自社とは縁もゆかりもない「文脈」に商品の置いてみたら、目を見張る新結合・イノベーションが起こるかもしれません。ゆえに、勉強熱心な経営者さんは、自社とはまったく異分野の業界からビジネスアイディアを学びます。
たとえば、トヨタの「ジャストインタイム」。アメリカのスーパーマーケットにおける生産ラインから着想を得ていることは有名です。ヤマト運輸は、吉野家が牛丼一本に絞って成功したケースを自社に当てはめて「宅急便」というサービスを考案しました。・・・こういう例はビジネスの世界を広く見渡せば枚挙にいとまがありません。
もちろん、個人においてもポジション理論は有効です。もともとアイドルとしてデビューした女性が、演歌歌手に転向して売れっ子になったケースもあります。漫才師としてデビューし、味のある性格俳優になった人もいる。それまでサラリーマンだった人が、好きなことを追求して人気YouTuberになる人もいます。
僕は思うんです。
人それぞれ、自分がもっとも輝く「文脈」が必ず存在すると。
今はまだ日の目を見なくても、不遇をかこつことなく、自分の得意なことや好きなことを追求する。あるいは「芸」を磨き続ける。そしてオープンマインドであらゆるジャンルや領域に目を向けて、自分が身を置けそうな「文脈」を探してみる。そのうち自分が輝くポジションを発見できるかもしれません。
『天使にラブ・ソングを…』のデロリスが、シスターになることで輝いたように。
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