朝ドラ「ブギウギ」感想・見どころ※心ズキズキワクワク!元気になれるドラマ

『ブギウギ』(2023年)

主演:趣里/草彅剛/蒼井優/水川あさみ/柳葉敏郎

2023(令和5)年10月2日からスタートのNHK連続テレビ小説「ブギウギ」。パワフルな踊りとパンチのきいた歌唱、そして陽気で “おもろい” 人柄で、終戦直後の日本を活気づけた歌手・笠置シヅ子をモデルに、その起伏に富んだ半生を描くドラマ。多くの困難を乗り越えてスターに成長していくヒロイン役・趣里の弾けるような演技も見どころ。朝ドラ「ブギウギ」の感想や考察、より物語を楽しむためのトリビアを綴ります。

このページではこんな疑問を解決します!!
  • ドラマの感想を一言で表現したら?
  • 「ブギウギ」のあらすじは?
  • ヒロイン役「趣里」の魅力とは?
  • 第1回の放送を見ての感想は?
  • 「ブギウギ」の出演者と作品情報は?
  • ヒロインのモデル「笠置シヅ子」ってどんな人?
  • このドラマの見どころは?
  • 「ブギウギ」はどんな人におすすめ?
目次

朝ドラ「ブギウギ」一筆感想

ズキズキワクワク
『ブギブギ』を見て感じた印象を筆のすさびで表現

あらすじ

戦後の荒廃した日本を「東京ブギウギ」や「買い物ブギー」などの流行歌で、日本中に旋風を巻き起こし、一躍大スターになった歌手・福来スズ子(趣里)。
戦争で傷ついた日本人を、持ち前の明るさと歌と踊りで勇気づけた「ブギの女王」の波瀾万丈な物語が幕を開ける。

大正15年、大阪福島にある銭湯「はな湯」の看板娘・花田鈴子(子供時代:澤井梨丘)は歌と踊りが大好きな女の子。
「はな湯」に足繁く通う個性豊かな常連たちは、鈴子の存在に心を和ませている。
花子は父・梅吉(柳葉敏郎)に連れられて観劇したUSK(梅丸少女歌劇団)のレビューに感動。
家業の銭湯を継ぐのではなく、レビュースターを目指す。

紆余曲折を経て、ついに鈴子はUSKに入団。
母・ツヤ(水川あさみ)がつけてくれた芸名は「福来スズ子」だ。

憧れの先輩・大和礼子(蒼井優)を目指して厳しい稽古に励むスズ子だが、USKではさまざまな出来事が起こる。
同期との友情や軋轢、歌劇団運営会社との争議を乗り越えながら、レビューガールとしての実力を身に付けたスズ子はやがて上京。東京で作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会う。
鈴子の抜きんでた才能を見抜いた羽鳥は厳愛指導。彼女を “スウィングの女王” に導いていく。

ところが、世の中はきなくさくなり、鈴子の耳にも軍靴の音が不穏に響いてくるのだった。
戦時中、歌手としての活動が制限され不遇をかこつスズ子だが、生涯のライバルとなるブルースの女王・茨田りつ子(菊地凛子)の生き方に感化されて発奮。歌手としてさらなる芸の高みを目指し、自分らしい表現スタイルを確立していく。

そんなスズ子の前に青年・村山愛助(水上恒司)が現れて、運命は大きなうねりをみせる。

ヒロイン福来スズ子役・趣里さんについての感想

俳優・趣里さんの魅力

ヒロイン・福来スズ子演じる、趣里さんは輝くような魅力の持ち主です。
第1回冒頭で披露される『東京ブギウギ』で早くも魅了されました。

初めて拝見した俳優さんですが、笠置シヅ子さんの半生を下敷きにした「ブギウギ」のヒロインにぴったりだなあと。
「光彩陸離」という言葉が自然に浮かんでくる女性です。

趣里さんは幼少期からクラシックバレエを習い、バレリーナを目指していただけあって、スラリとまっすぐな姿勢には目を見張るものがあります。

流麗にして優美。清澄感あふれるエレガンス。
繊細さのなかにも、ときおり “土性骨” を感じさせて、思わずハッとしてしまう。
見る者の心をやさしく解きほぐして、すっかり無防備にしてしまう人ですね。

レビューガールを演じたら一滴は混じる “媚態” も、この人の持つ澄みきった清冽さが相殺してしまうようです。
でもそれは、ヒロイン・福来スズ子を演じるうえでけっしてマイナスには働きません。

趣里さんの翳りのない清純さ、しなやかでチャーミングな女性美は、福来スズ子のキャラクターにプラスになりこそすれ、手かせ足かせになることはないでしょう。

弾けるような笑顔、てらいのない立ち居振る舞いは微笑ましく、留保なしに全力で応援したくなります。
自分が歌う舞台を、雅やかに芳醇な色彩で染め上げる “華” を持っている人。
あっさり言えば、スターなのです。

笠置シヅ子さんと趣里さんの共通点

趣里さんは、とくに笠置シヅ子さんに似ているというのではありません。
歌い方や声質が似ているというのでもない。
笠置さんに感じられた “善良なハスッパさ” が趣里さんには薄いかもしれませんが、笠置さんには感じられなかった、”雅やかでフレッシュな爽味” が趣里さんには感じられます。

「じゃあふたりに共通点がないじゃないか!」となりそうですが、たしかに共通点はあるのです。
それは、人の心を根っこから震わせる「ド愛嬌」と言えばいいのでしょうか。

他者とのあいだに垣根を作らず、外へ外へと向かう開放性と向日性━━
360°全方位からフォローせずにはいられなくなる、かざらない人となり━━
すべての人に無条件で元気をチャージしてくれそうな気前の良さ━━
こういう「ド愛嬌」が放つ輝きが人の心を揺さぶり、すっかり虜にしてしまう。
これが笠置シヅ子さんと趣里さんに共通した、たぐいまれな美質だと考えています。

ビジュアル面で笠置シヅ子さんを彷彿とさせる俳優を起用すれば、ドラマとしての輝きや艶めきは、いくぶんくぐもって視聴者に届きにくくなるかもしれない。
むしろ「笠置シヅ子」という稀有なパーソナリティは、そっくり踏襲されるよりも、精神性を承継しつつ大胆に色づけして再構築した方が、より生々しくドライブ感やグルーブ感を伴って再現できるように思うのです。

「ブギウギ」は、趣里という得がたい逸材を得て、今の時代に際立つ「新しい笠置シヅ子」を怠りなく再構築していくでしょう。いったいぜんたい、どんな素晴らしい物語を見せてくれるのだろう……ズキズキワクワクがとまらない……「ブギウギ」を全力応援したい気持ちでいっぱいです。

趣里さんの主な出演作品

2011年ドラマ:3年B組金八先生ファイナル直前同窓会スペシャル・ファイナル〜「最後の贈る言葉」
2016年ドラマ:連続テレビ小説「とと姉ちゃん」
2017年ドラマ:「リバース」「過ちスクランブル」
2018年ドラマ:「ブラックペアン」
映画:「生きてるだけで、愛。」
※第42回日本アカデミー賞新人俳優賞
2019年ドラマ:「イノセンス 冤罪弁護士」
2022年ドラマ:「サワコ 〜それは、果てなき復讐」
映画:「もっと超越した所へ。」
舞台:「温暖化の秋 -hot autumn-」
2023年映画:「愛にイナズマ」「ほかげ」
ドラマ:「東京貧困女子。-貧困なんて他人事だと思ってた-」

「ブギウギ」ドラマの感想

第1週から第3週までの感想やあらすじはこちら

「ブギウギ」第1週第1回のあらすじ

75年前、占領下の日本。
民草を勇気づけ、希望を与えた歌手・福来スズ子のやたらとおかしくて、涙がぽろりとこぼれる、ズキズキワクワクな物語が始まる。

大正の最後の年、大阪福島の「はな湯」は、主人・梅吉とその妻・ツヤが切り盛りしている銭湯だ。
看板娘・鈴子は、勉強が苦手だけど、歌と踊りが大好きな女の子。3歳下には、亀好きの弟・六郎がいる。
鈴子の親友タイ子は性格がおとなしい娘。対照的なふたりは馬が合っている。鈴子はタイ子の母親から日舞を習っていた。

ある日、鈴子は、母・ツヤにふとした疑問をぶつけた。
「はな湯」の常連のひとり「アホのおっちゃん」を、なぜタダで銭湯に入らせるのか?と。
ツヤは噛んで含めるように義理人情の大切さを娘に説くのだった。

「ブギウギ」第1週第1回の感想

情緒漂う、大正末期から昭和の大阪シーン

物語の序盤は、大正15年大阪の下町・福島から始まります。
風情あるたたずまいがなんともいえない情緒が漂っていて、これがまたいいんですねぇ……
なんともほっこりした気分になります。
NHKの朝ドラだけあって時代考証は念入りにされているでしょう。

古き良き時代の銭湯、そして生活感あふれる常連客とのほのぼのとした交流。
その時代を生きていたわけではないのに、なぜかノスタルジックな感慨にふけってしまう。
映像芸術として楽しめました。

まるで新喜劇のような愉快な脱力感!肩肘張らずに楽しめる

「ブギウギ」の第1回は、おちついたおどろきをもって見終えました。
まさか、NHK連続テレビ小説がこんなに楽しいとは。
なにしろ、ドラマのノリが「新喜劇」です。
良い意味で愉快な脱力感があって、肩肘張らずに楽しんで元気をもらえました。

スズ子の少女時代を演じる澤井梨丘さんは素朴な可愛さがいいですね。
梅吉役・柳葉敏郎さんの弱さを肯定する生き方がまぶしい。
そして、ツヤ役・水川あさみさんは実のある潔い演技で、母の強さを表現しています。

第1回を見てだけでも、心ズキズキワクワクしました。
これはもう、全話さいごまで見てしまうでしょう。
「ブギウギ」の最終回の放送終了後、「スズ子ロス」になる予感がしています。

「ブギウギ」キャスト&作品情報

「ブギウギ」登場人物相関図

クリック(タップ)して、拡大してご覧ください。
※上記の「ブギウギ」相関図は、主だった登場人物だけで構成しています。
すべての出演者を網羅しているわけではありません。

出演者

ヒロインとその家族花田鈴子(芸名:福来スズ子)・・・趣里
花田梅吉・・・柳葉敏郎
花田ツヤ・・・水川あさみ
花田六郎・・・黒崎煌代
鈴子(子供時代)・・・澤井梨丘
六郎(子供時代)・・・又野暁仁
大阪福島の人々アサ・・・楠見薫
タイ子・・・藤間爽子
タイ子(子供時代)・・・清水胡桃
熱々先生・・・妹尾和夫
易者・・・なだぎ武
ゴンベエ・・・宇野祥平
キヨ・・・三谷昌登
アホのおっちゃん・・・岡部たかし
三沢光子・・・本上まなみ
道頓堀の人々大和礼子・・・蒼井優
橘アオイ・・・翼和希
白川幸子(リリー白川)・・・清水くるみ
秋山美月・・・伊原六花
桜庭辰美(桜庭和希)・・・片山友希
大熊社長・・・升毅
林部長・・・橋本じゅん
股野義夫・・・森永悠希
コック・・・後藤淳平〈ジャルジャル〉
ハット・・・福徳秀介〈ジャルジャル〉
香川の人々大西トシ・・・三林京子
治郎丸和一・・・石倉三郎
西野キヌ・・・中越典子
東京の人々羽鳥善一・・・草彅剛
村山愛助・・・水上恒司
茨田りつ子・・・菊地凛子
羽鳥麻里・・・市川実和子
小村チズ・・・ふせえり
小村吾郎・・・隈本晃俊
藤村薫・・・宮本亜門
小林小夜・・・富田望生
伝蔵・・・坂田聡
松永大星・・・新納慎也
辛島一平・・・安井順平
中山史郎・・・小栗基裕
楽団の人々一井・・・陰山泰
二村・・・えなりかずき
三谷・・・国木田かっぱ
四条・・・伊藤えん魔
五木ひろき・・・村上新悟
語り高瀬耕造(NHKアナウンサー)

作品情報

放送局NHK
放送時間【NHK総合】
毎週月~土 午前8:00~8:15ほか
※土曜日は1週間の振り

【NHK BSプレミアム/NHK BS4K】
毎週月~金 午前7:30~7:4
5※土曜日のみ午前9:25~10:40で1週間分一挙放送
脚本足立紳/櫻井剛
演出福井充広/鈴木航/二見大輔/泉並敬眞/盆子原誠ほか
制作統括福岡利武/櫻井壮一
音楽服部隆之
主題歌『ハッピー☆ブギ』
※中納良恵(EGO-WRAPPIN’)/さかいゆう/趣里
見逃し配信NHKプラスNHKオンデマンド

「ブギウギ」の見どころ

ヒロイン・スズ子の戦後の大スターへと成長していく姿

趣里さん演じる花田鈴子(芸名:福来スズ子)が、激動の時代をたくましく駆け抜けて、歌手の道を歩み、ブギの女王として成長していく姿は見ごたえたっぷり。

生涯の師である作曲家・羽鳥善一による厳しくもあたたかい薫陶によって、スズ子はスターへの階段を昇っていきます。
ときに落ち込み、ときに傷つくスズ子ですが、持ち前の明るさと地べたの気さくさで周囲の人々に勇気と希望を与える姿は、突き抜けるようにさわやかです。

視聴者はテレビの向こうで息を呑みながら、スズ子が成長していく姿を見守ることになります。

ざっくばらんで親密な大阪下町の人々の微笑ましさ

ドラマの序盤は大阪編。
スズ子の実家の銭湯には、個性豊かな人々が集まり、ざっくばらんで親密な空気が横溢しています。
コッテコテだけれど、おおらかでやさしく、お互いがお互いを思い合い、ありようを認めている。
見ていて微笑ましいものがあります。

父・梅吉と、母・ツヤの、コテコテの愛情の深さにはホロリとさせられるでしょう。
滑稽味が混じるだけに、娘・スズ子を想う気持ちがじんわりとぬくもりを損なわず視聴者に伝わってくる。
朝から見るにはいくぶん濃いかもしれませんが、栄養満点のドラマであることは間違いありません。

スズ子のロマンス

「ブギウギ」には、とびっきりのロマンスが用意されています。
スズ子にとっての最愛の男性は村山愛助。東京の大学生。
太平洋戦争中の暗い時代、いかにしてふたりが出会い、恋に落ちて、愛を発展させていくのか━━ これも見どころです。

スズ子と村山の結びつき、愛情の深さにしんと心を打たれるでしょう。
ふだんコテコテなだけに、恋をしてほんのり艶っぽくなったスズ子にどぎまぎしてしまうかもしれません。

ミュージカルのような臨場感あふれる歌劇シーン

ヒロイン・スズ子が入団するUSK(梅丸少女歌劇団)の歌劇は、ドラマの中のシーンだからといって手抜きはありません。
実際に笠置シヅ子さんが所属していた100年の歴史を持つ「OSK日本歌劇団」にひとつの範をとった舞台演出は本格的。
リアリティに富んだ迫力満点の舞台が楽しめます。

ドラマの中でとくに印象深いセリフが、USKのメンバーが本番前に一体感と連帯感を高めるために円陣を組んで唱和する「強く、たくましく、泥くさく、艶やかに!」。まさにこの言葉を体現したショーを魅せてくれるはず。
その情熱のほとばしりを、ときにたおやかに、ときに力強く、ときにパセティックに歌と踊りで表現するスズ子たちに喝采を送りたくなるでしょう。

ミュージカルさながらの臨場感あふれる歌劇シーンは、ドラマの関係上、短時間です。
編集でカットするのは制作スタッフの方々にとってずいぶん辛い作業だったのではないでしょうか。
この際、歌劇シーンの完全版をBlu-rayで発売してほしいです。

ラインダンス

踊り手達の一糸乱れぬラインダンスはまさに舞台の華。
単に視覚的な美しさだけでなく、音楽との調和、一体感のダイナミズムによって、単なる踊り以上の美の高みが示されます。

踊り手それぞれの個性は損なわれず、むしろ個性を補いあい、輝かせあうようなステージに、思わずため息がもれてしまう。
観る側はうっとりしてしまいますが、「脚上げ」をしている側はたいへんでしょうね。

とまれ、「ブギウギ」の中で披露されるスズ子たちのあでやかでゴージャスなラインダンスに目を奪われるでしょう。
甘美なほてりによろめき、しびれてしまうかもしれません。

東京シーン

USK(梅丸少女歌劇団)で頭角をあらわしたスズ子が東京に拠点を移すのが1938年(昭和13年)。
前年に盧溝橋事件を発端とする日中戦争が始まっており、政府、陸軍は有頂天になって夜郎自大になっていきます。

戦中・戦後を舞台にした映画やドラマは多いですが、銃後における芸能の世界を描いた作品は少ないです。
昭和モダンの雰囲気をたたえながらも、きなくさく翳りゆく東京の光景。戦中の荒涼たるくらし。そして戦後の荒廃と復興。それらをドラマの中でいかに表現していくのか━━ これも「ブギウギ」の見どころのひとつです。

ブギの女王・笠置シヅ子の人物評※朝ドラ「ブギウギ」を10倍楽しむために

「ブギウギ」の原案本になった『ブギの女王・笠置シヅ子 心ズキズキワクワクああしんど』砂古口 早苗 (著)※潮文庫

笠置シヅ子さんについて

本名:亀井静子
生年月日:大正3年8月25日
出身地:香川県大川郡相生村(旧:引田町・現:東かがわ市)
子女: 亀井エイ子

1927年(昭和2年)、笠置シヅ子は、「OSK日本歌劇団」の前身である大阪松竹楽劇部に入団。
当初の芸名は、三笠静子。のち「笠置シズ子」と改める。

23歳で上京後、作曲家・服部良一に見出されて、ジャズ歌手として人気者に。スイングの女王として絶賛されるも、戦時中のために公演は中止になる。笠置シズ子にとって、戦中戦後は生涯で最も苦しい時代だったが、敗戦直後占領下の日本で、歌手としての第2ステージが始まる。

昭和23年1月に発売した「東京ブギウギ」が空前の大ヒット。
シズ子は、「ブギの女王」と呼ばれ一世を風靡。当時、天才少女と言われた美空ひばりも、シズ子のものまねで人気を博すほどだった。

やがて、ブギの時代も翳りを見せ、昭和31年1月にリリースした「たよりにしてまっせ」を最後にシズ子は歌手を引退する。
その後は、芸名を「笠置 “シヅ子” 」と改めて、女優、タレントとして活躍。
昭和60年3月30日永眠。

おもろいブギの女王

笠置シヅ子さんの代表曲といえば、「東京ブギウギ」「ジャングル・ブギー」「買物ブギー」です。
とりわけ「買物ブギー」は、強烈なパンチがあって、聴いていて微苦笑を禁じ得ません。
現代の若いクリエイターさんにも影響を受けている人は多いと思います。

大きく開いたチャーミングな口からついて出るのは、こってり濃厚な大阪弁。
あまりにも闊達自在で歌いながらの飛び回るアクションは、戦争で傷つき娯楽を求めていた民草に活力と滋養を与えたことでしょう。

ただ良くも悪くも、彼女のブギは、その音楽性から乖離していきます。
笠置シヅ子流に染め上げられた “見せる音楽芸” として大衆に受け入れられ、消費されたのではないでしょうか。
たとえ本来のブギから離れたとしても、彼女の芸風は、占領下の猥雑な風景にうまく馴染みました。

おかしくて、楽しくて、一度聴いたら忘れられない歌声。一度見たら脳裏に焼きつく踊り。
今のアイドル歌手とも、お笑い芸人とも違う。
現在の芸能のカテゴリーには収まりきらない破格の個性。
そんなおもろいブギの女王・笠置シヅ子さんは、余人には代えがたい異彩を放つエンターテイナーだったのではないでしょうか。

一途な可憐さと、一本気な潔さ

笠置シヅ子さんは生涯でたったひとりの男性だけを愛し、女児を出産。
その男性、吉本興業の創業者の息子である吉本穎右さんは、23歳という若さで急逝。
出会いから死別まで、たった4年の歳月でしたが、笠置シヅ子さんにとっては一生を決めた4年でした。

この一事だけでも、笠置シヅ子さんの一途な可憐な “人となり” が偲ばれます。
ひとりの人間の完結した人生を俯瞰すると、その人のしんじつなありようが浮かび上がってくるものですね。

いっぽうで、笠置さんは義理がたく生一本な性質も持っていました。

●故郷香川の県知事に請われて、香川大学設立募金のためのチャリティー公演を開催(1951年4月)
●舞台で共演し、芸能の師と仰ぐ喜劇王エノケン(榎本健一)の代役を引き受ける(1952年10月)
●生きるために春をひさぐしかなかった女性たちと親睦をはかり、自立するための更生施設づくりに相談に応じる
●恩師・服部良一の薫陶にむくいるようにブギを歌い続けた

笠置さんは人気歌手になっても傲り高ぶることはありませんでした。
“驕慢さを見せかけの謙虚さで偽装する” というのでもない。
だからこそ、当時、有楽町や上野などのガード下に出没した「闇の女」「夜の女」といわれた街娼たちから熱狂的に支持されたのでしょう。

やがて、昭和20年代の後半になると、ブギのブームは下降線をたどり、マンボが流行します。
1956年12月31日、紅白歌合戦への出場を最後に、笠置シズ子さんは歌手を卒業。
その後は、女優・タレントとして活躍し、二度と歌うことはありませんでした。

女優・タレントに転業後、笠置さんは映画関係者やテレビ局を挨拶回りした際、こう述べたそうです。
「これまでの歌手として高いギャラはいらない。新人女優のギャラでお願いしたい」と。
これはなかなか言えない言葉です。

一途な可憐さと一本気な潔さ━━ 笠置シズ子さんが持つふたつの要素はお互いを排斥しあうのではなく、むしろお互いを裏付けあっているのかもしれません。

笠置シヅ子さんが出演している映画

銀座カンカン娘

『銀座カンカン娘』(1949年)

主演:高峰秀子/笠置シヅ子/灰田勝彦/古今亭志ん生 (5代目)

人気女優と人気歌手のW主演が実現した音楽映画。
ひょんなきっかけで、友人同士のお秋(高峰)とお春(笠置)はバーで歌うことに。健康美あふれる高峰と、ユーモアたっぷりの笠置の美しさは間然するところなし。主題歌「銀座カンカン娘」も流行歌に。今見ても十分楽しめる作品。

笠置シヅ子さんが出演している映画の中では、この『銀座カンカン娘』が白眉です。
彼女の歌唱は、ふくよかで伸びがあり、清潔な色香を漂っています。
たっぷりと哀愁をかき立てる ”俗情への媚び” にも不足はありません。
笠置シヅ子の芸達者ぶりがうかがえる作品です。

高峰秀子さんの美しさには思わず唸ってしまいますが、コテコテの大阪弁が前面に主張しすぎるきらいがあるとはいえ、笠置シヅ子さんも “あでやかな佳人” であることがわかるでしょう。

今回『銀座カンカン娘』を見て気づいたのは、高峰秀子さんと笠置シヅ子さんは、性格が似ているかもしれないな…ということ。おふたりとも、まごうかたなき大和撫子でした。筋目の通った生き方が実に “美事” なのです。

やさしくて、度胸があり、曲がったことは大嫌い。
義理堅く、情にもろく、人間の弱さに対して寛大。
人に騙されてもしょうがないと諦められるけど、自分は人を騙すのは耐えがたい。
潔癖で頑固、職人肌だけど、ピュアで一途で可憐である。

・・・こんなふたりですから、馬が合ったのかもしれません。
高峰秀子さんのエッセイ『わたしの渡世日記・下』によると、彼女は共演以前から笠置シヅ子さんのファンだったそうで、追っかけをしていたらしい。人気女優の “推し” が「ブギの女王」とはおもしろいですね。

また『銀座カンカン娘』のなかでは、少しだけですが、笠置シヅ子さんの「ジャングル・ブギー」も楽しめます。
エネルギッシュでちょっぴり泥臭い笠置シヅ子さんは、けっこうインパクト強めです。

笠置シヅ子さんは、黒澤明作品『酔いどれ天使』(1948年)にも出演。
この映画の中で歌う「ジャングル・ブギー」では、さらにパワフルで強烈な笠置節が堪能できます。

笠置シヅ子さんを際立たせた人々

服部良一(1907年~1993年)

笠置シヅ子さんをブギの女王に導いた作曲家にして、和製ポップスの父といっても過言ではない存在です。
『東京ブギウギ』『ジャングル・ブギー』『買物ブギー』などのブギの他にも、『銀座カンカン娘』『別れのブルース』『青い山脈』といった国民的ヒット曲も服部さんが手がけています。

笠置さんが生涯師と仰いだ服部さんもまた、笠置シヅ子という類いまれな才能を慈しんだのでしょう。
その一方で、大衆娯楽として消費される音楽と、豊かな芸術として愛でられる音楽の葛藤に苦しんだようです。
服部良一さんの人生を俯瞰すると、美に妥協を許さない芸術家の哀しみがひしひしと感じられます。

榎本健一(1904年~1970年)

日本の喜劇王エノケンが、笠置シヅ子さんに与えた影響は小さくありません。
天衣無縫ともいえる体をつかった芸は、笠置シヅ子さんのパフォーマンスにもその片鱗がうかがえるからです。

笠置シヅ子さんの才能を見抜いたエノケンは彼女を起用。
舞台「エノケン・笠置のお染久松」は好評を博しました。

笠置シヅ子さんはコメディエンヌとしての経験を積んで、ブギの女王として一頭地を抜く存在になります。
歌の師は服部良一、喜劇の師は榎本健一。
スター・笠置シヅ子は、ふたりの名伯楽によって世に送り出されたといっても過言ではありません。

古川ロッパ(1903年~1961年)

エノケンのライバルにして、昭和のコメディアン。
インテリであり、文才にも恵まれていたため文筆家としても活躍。
『古川ロッパ昭和日記』は名作の誉れ高く、今読んでもおもしろいです。

喜劇役者として売れっ子の笠置シヅ子さんとも共演していますが、ロッパさんの人気は翳りをみせていたようで、内心忸怩たるものがあったのでしょう。

芸論や芸談も得意とする『日記』のなかで、笠置シヅ子さんの芸風をほめたりくさしたりしています。
人気者への嫉妬と敬意が、ロッパさんの達意の文章の行間が立ち上がってきて、形容しがたい妙味がグッとくるのです。

水の江瀧子(1915年~2009年)

日本の少女歌劇の男役の草分けが、水の江瀧子さんです。
「タアキイ」という愛称で親しまれ、男装の麗人として世の女性を虜にしました。
笠置シズ子さんと水の江瀧子さんが出会ったのは、1928年、浅草松竹座で開催された東京松竹楽劇部の旗揚げ公演(大阪組の上京公演も同時開催)でした。

1938年の帝劇公演「ストロー・ハット」でも共演。
とくにふたりに不穏な確執があったわけではありませんが、年齢も違わず、同じレビューの世界を生きた者同士、意識しあっていたのではないでしょうか。

「ブギウギ」の中でも、桃色争議のエピソードが挿入されますが、これは実際に起こった事件で、うら若き東京松竹歌劇団、百数十人が親会社にストライキを決行。当時19歳の「タアキイ」が闘争委員長として踊り子達を束ね、「首切り減給反対」「衛生設備の完備」など28項目の待遇改善要求をしたそうです。
生一本な「女傑」の性格がうかがえるエピソードですね。

淡谷のり子(1907年~1999年)

笠置シズ子さんが「ブギの女王」なら、淡谷のり子さんは「ブルースの女王」。
『別れのブルース』で流行歌手になりました。
といっても戦争の時代ですから、ブルースなんて明らかに敵性音楽です。
淡谷さんが警察で何度も始末書を書かされたというのは有名は話。
彼女の一歩も後にひかない反骨精神の裏には、海のように深い慈愛が垣間見えます。

同じ「女王」として、笠置さんと淡谷さんがよく比較されたのもわかるような気がする。
なにしろ、笠置さんはあけっぴろげな「動」の歌手であり、淡谷さんはしっとり落ち着いた「静」の歌手。
笠置さんが行動派なら、淡谷さんは思索的です。

7歳年長の淡谷さんも笠置シヅ子さんの実力を認めていたのでしょう。
笠置シヅ子さんの芸風を批判するのですが、ロッパさんとは違って、大切な妹に接するような厳愛を感じさせます。
ときとして地べたから突きあげるようなエネルギッシュな笠置さんを見て、首をひねっている淡谷のり子さんの姿が目に浮かぶようです。

美空ひばり(1937年~1989年)

名実ともに「歌謡界の女王」といっても誰も反論しないでしょう。
美空ひばりさんは本格デビュー前の少女歌手時代に、「ベビー笠置」「豆笠置」として売り出されたそうです。
あくまで笠置さんのモノマネですけど、ブギを歌う少女はさだめし微笑ましかったことでしょう。

その後、笠置さん側とひばりさん側のあいだに確執があったそうです。
笠置さん側が、ひばりさん側に「ブギを歌わないで」というクレームをつけたという有名な逸話があります。ですが「笠置シヅ子が天才少女に嫉妬して圧力をかけた」という理由の部分は、誰かがつけた「尾ひれ」っぽい気がしないでもありません。

ひとつ確実に言えることがあります。
『ブギの女王・笠置シヅ子 心ズキズキワクワクああしんど』を著した砂古口早苗さんによると、 笠置シヅ子さん側の資料には、ひばりさんに関する言及や談話のたぐいは一切ないということ。
つまり、「笠置シヅ子VS美空ひばり」という構図は、ひばりさん側の資料によって生み出されたのです。

笠置さんが、美空ひばりという歌手にどんな感情を抱いていたのか、今となっては知りようがありません。
彼女は「黙する」という姿勢を通して、言葉で語る以上の何かを伝えたかったのでしょうか。

わざわざ僕が言うまでもありませんが、美空ひばりさんは不世出の歌手です。
カリスマ性にも不足はありません。今もまだ歌い継がれているのですから。
でも個人的には、歌手・笠置シヅ子さんの中庸と含羞を「多」としたいです。

こんなあなたに「ブギウギ」はおすすめ!

とにかく前向き、元気になりたい人

朝ドラ「ブギウギ」は、フレンドリーであけっぴろげな主人公:福来スズ子の半生の物語です。
元気いっぱいの歌と踊りで彩られた物語は、難しい理屈抜きに楽しめるでしょう。
ややこしい理屈なしに、前向きに元気になれるはず。

笠置シヅ子さんがブギの女王として人気者になった、75年前の日本は、人々がお腹をすかせながらも、復興に向けて汗水たらして働いていました。現在とは比較にならないほど物資は乏しかったでしょう。

しかし、敗戦直後の活気と熱気、猥雑さが横溢した時代の空気感には、「絶望なんてしていられないや」「よし!やったるでー!」と人々を突き動かし、心を奮い立たせる刺激があったのではないかと。
たとえ物質的に貧しくても、そこには閉塞はありませんでした。
明日をも知れぬ我が身なれど、復興の槌音を高らかに響かせながら、たくましく暮らしを立てていったのは、民草に根源的な生きる活力がみなぎっていたからではないでしょうか。

古今東西、人々を心を支え、慰撫し、生きる活力を注ぐのは、娯楽です。
戦後直後の占領下の日本において、人々は流行歌を口ずさみ、それを心に支えにしたことでしょう。
とりわけブギの女王・笠置シヅ子さんのフレンドリーであけっぴろげな闊達さには、闇を晴らし、閉塞を打破するほどのパワーがあったように思うのです。

そんな笠置さんをモデルにしたヒロインの活躍を見ているうちに、当時の人々ような「よし!やったるでー!」という気分になれるかもしれません。
娯楽の持つ素朴なパワーにあてられて、元気をチャージできるでしょう。

先行き不透明で見定めがたい世の中に不安をかかえている人

「ブギウギ」を見たからといって、将来に見通しが立つと言いたいわけではありません。
歴史のなかの現代という観点から、今の時代を俯瞰することで、先行き不透明なのは今に始まったことではないという事実を再認識でき━━ このことを申し上げたいのです。

「ブギウギ」に限ったことではありませんが、実在の人物をモデルにしたドラマを見ながら、ひとりの人間の「完結した人生」に追体験できます。ドラマを楽しみながら、昭和史を振り返ることで、大きな歴史の流れから現代を俯瞰する視点を獲得できる。連続テレビ小説の素晴らしさといえましょう。

戦後の復興から、高度経済成長、バブル景気を経て、AI・デジタル・SNSの時代に至りますが、快適で便利になったと同時に、ぬきがたい閉塞感が漂っています。

現代を生きる我々は、明日への “米びつ” の心配はなくなり、暮らしの不便は解消されたけれども、戦後の人々が想像もつかないような、複雑で重い問題を抱えている。価値観が多様化したわりには、━━ あるいは価値観が多様化したゆえに━━ 人々は不寛容になり、名状しがたい息苦しさに呻吟しながら生きているように見えなくもありません。

今だからこそ、笠置シヅ子さんの存在を振り返り、彼女をモデルとした「ブギウギ」を見ることで、今の複雑な世界の諸相に光が当てられ、ふだん見ることのかなわない大所高所から、“今の時代に生きる自分の立ち位置” を俯瞰できるように思います。未来は予測しがたいけれど、1日1日を怠りなくていねいに生きようという気持ちにさせられるのです。

今、夢に向かって一生懸命頑張っている人

今、自分の夢を叶えるために、毎日全力で頑張っているあなたは、「ブギウギ」に勇気づけられるでしょう。
「ブギウギ」の第1週で、小学校卒業後の進路に悩むスズ子に、母・ツヤは平易だけれども深い哲学と洞察を含んだアドバイスをします。

それでも人は自分がこれや!思うところで生きていくんがええ。そういう場を探していかなあかん!

「ブギウギ」より

この一言が、スズ子の運命を変えることになります。
自分に正直になったスズ子は、歌って踊るのがいちばん楽しいことに気づいて、自分の進路を決定するのです。
このシーンは将来の進路に迷う人に深く刺さるでしょう。

先行きがわからなくても、自分の「好き」をひたぶるに追求すれば、きっとどこかにたどり着けるはず。
翻って言えば、先行きがわからないときほど、自分の「好き」をどこまでも追求すればいいのです。
それが何らかのかたちになって、社会の役に立ち、人々のニーズを満たすサービスに結実すれば、ビジネスにつながります。

夢を追いかける人にも、自分が何をやりたいのかわからない人にも、「ブギウギ」は物語を通して、力強い応援メッセージを投げかけ、やさしく鼓舞してくれるでしょう。
心ズキズキワクワクするような人生を自分で切り拓く力を与えてくれるドラマです。

さいごに

恥ずかしい話ですが、僕はこれまで朝ドラ(NHK連続テレビ小説)を集中的に見たことがありません。

意識的に避けていた?
いや、そうではありません。
ただ、時間があれば名作映画を鑑賞することをもっぱらとしていました。

朝ドラといえば国民的ドラマですよね。
最大公約数が満足のいく「お行儀のよいドラマ」という先入観がある。
お行儀の良さより、お行儀が悪く社会常識からこぼれ落ちてしまう人の物語にゆえなく心惹かれる僕には、朝ドラはちょっと “薄味” に思えました。薄味もなにも “食わず嫌い” なんですがね。

そんなわけで、しっかり “濃いくち” で、ときにスパイシーな映画ばかり見てきました。

ところがある日、たまたま見かけた、新しい朝ドラ「ブギウギ」の番組宣伝に心を強く惹きつけられてびっくり。
それこそ、先入観や色眼鏡をぴょーんと飛び越して心を揺さぶってきた。
チャーミングな女の子が、名曲「東京ブギウギ」を歌っている。

「あ、あの笠置シヅ子がモデルかぁ…楽しそうだな」
「このドラマは面白いだろうな、いや面白いに決まっている」とほとんど確信めいた予感がして、無性に見たくなってしまいました。

もともと、パンチのきいた笠置シヅ子さんの音楽は好きだし、戦前から戦後の時代背景や昭和の文化にも興味がある。
でもそれだけでは説明しきれない、理屈を跨ぎ越してくる強烈な訴求力が「ブギウギ」にはあります。

もしあなたが僕のように「朝ドラはどうもなぁ…」と食指が動かないタイプなら、試しに「ブギウギ」を視聴してみてはいかがでしょう。

ズキズキワクワクの予感がしたら、それはあなたと相性バツグンのドラマであるサインです。

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