『仁義なき戦い』感想※魅了される没義道の美、味わうには胆力が要る

 『仁義なき戦い』(1973年)

『仁義なき戦い』(1973年)

主演:菅原文太/金子信雄

とびきり激越なバイオレンス描写と、アウトローたちの凄まじい気迫で圧倒する映像で大ヒットを記録した実録任侠路線シリーズ。血で血を洗う広島抗争の真っ只中を生き抜いた元組長の手記をベースに、飯干晃一が著したドキュメントを映像化。1作目が予想外の大ヒット。続けて73年中に第2弾、第3弾が制作される。そんな『仁義なき戦い』の魅力をご紹介。

この映画、こんなあなたにおすすめです!
  • 毎日、崖っぷちで頑張っている方
  • きれいごとばかりではない任侠の世界を垣間見たい方
  • 実録アウトロー映画の原点にして頂点となる作品をチェックしたい方
  • 罰当たりなくらい、ギラッギラな生命力に当てられたい方
  • 身もフタもないバイオレンスが大好きな方
【注意!】

壮絶な暴力描写に溢れた映画です。もし苦手なら視聴をお控えになったほうが無難です。

目次

『仁義なき戦い』動画視聴しての感想

『仁義なき戦い』を見て感じた印象を筆のすさびで表現

非日常の世界に身を置く人間だけが見せる、人間存在のどぎつい本質

卓越した映像作家は、なぜ、舞台装置としてアウトローの世界を選ぶのか?
非日常の世界に身をおいた人間だけが見せる、人間存在のどぎつい本質を表現するためであろう。深作欣二監督も例外ではない。

それまでの東映任侠映画には、実に魅力的な侠客が登場した。鶴田浩二、高倉健、藤純子といったスターを生みだした作品群を貫くのは義理と人情、その葛藤である。

だが、そんな任侠映画が下り坂になり、東映は新しい表現スタイルを模索しつつ実験的に実録モノを制作する。その劈頭を飾ったのが、全編、裏切りと悪だくみが横溢する『仁義なき戦い』だ。きれいごとばかりではない任侠の世界を通して、崖っぷちの人間が放出する、むせかえるような ”えぐみ” を惜しげもなく映し出している。深作欣二が表現したい映像をとことんまで追求して遠慮なくぶちかましたかのようだ。

すこぶるつきに猥雑な没義道(もぎどう)の美

作品世界は、殺伐としていて凄まじい暴力シーンが散見されるが、『仁義なき戦い』の魅力はそれだけではない。仁義を欠く人々が裏切ったり寝首をかいたり策略を弄したりして、急坂を転げ落ちるように展開するストーリーにはただただ圧倒される。凄みをきかせてよたったアウトローたちの瘴気に当てられて、思わずのけぞってしまう。

陰謀うずまく任侠世界で成り上がろうとする人々の身もフタもない抗争・暗闘は、すこぶるつきに猥雑で、没義道が放つ美しさに沸き返っている。理屈なしに魅了されるのだ。掛け値なしに痛快な娯楽作品だけど、その愉悦を最大限まで高めるには見る側に胆力が要求される。まったく観客にすら仁義が足りない。そこがカッコいい。

服役前、背中の刺青をさらして娼婦の肉体に溺れる広能が呻くようにいうセリフが素敵だ。
「あとがないんじゃ… あとがぁ…」
没義道に生きる凄絶さが心に食い込んでくる。

作品に「負」の光輝を与える、映像と音楽と諧謔味

『仁義なき戦い』の作品世界に「負」の光輝を与えているのは、映像と音楽と諧謔味(かいぎゃくみ)だと思う。

まず「映像」。
手持ちカメラの使用した荒みのある映像美は、ざらついた世界観を観客の脳裏に焼き付ける。ブレなんて野暮なことは気にしない。善男善女、有象無象の中に遠慮会釈なく突っ込んでいくことで、むさくるしくも神々しい臨場感を生みだしている。

つぎに「音楽」。
津島利章による、あのいかめしい面構えのテーマ曲は、ただではすまないスリルと切迫感がハンパない。耳障りなのに不思議に心地よく体中を引っ掻き回す。耳にするたび血が騒ぎ肉が踊り狂気が弾ける。

さいごに「諧謔味」。
やはりアウトロー独特の言葉は、あけすけで猛々しく、「圧」だけで横っ面をひっぱたく。それでいて欲に目がくらんだ野獣どもの口から炸裂する啖呵には、どす黒きユーモアがなみなみと湛えられていて、仁義なき世界における罰当たりなエネルギーの源泉になっている。

映像、音楽、諧謔味によって、『仁義なき戦い』の「負」の栄光は燦然と輝くばかりだ。いまだ人気が翳らないのも、さもありなん。

『仁義なき戦い』のキャストについて

広能昌三(菅原文太)

冷酷というより冷徹タイプ、度胸と腕っぷしで生きるアウトローを、ざらついた手触りで力演。菅原文太は実録ものアウトロー映画の主役にふさわしい面構えだ。任侠の世界のなかで成り上がっていく様が生々しく、それでいてクールな内省も感じさせる。『仁義なき戦い』が、この比類なき役者の芸格を前景化させたのかもしれない。

広能昌三のモデルとなった広島抗争の中心人物の一人、美能幸三氏の諦観が菅原文太に脈打っているかのようだ。余計な義理人情の入り込むすきはない。仁義を欠く世界のなかで、安目を売ることなくひとり仁義を通そうとする姿を通して、戦後復興を駆け抜けるたくましい生命力のぎらつきを伝えている。

山守義雄(金子信雄)

『仁義なき戦い』の登場人物のなかでも特筆すべきは、山守組組長を演じた金子信雄だろう。情け容赦ない俗物の姿に圧倒される。見るたびにガツンとくる。パンチがある。スパイシーな闇がある。義理人情を欠いた卑劣な男が発散する ” えぐみ ” はなんともコクが深い。画面の底からあふれてきてジュワっと吹きこぼれる。そこに含まれるユーモアはどこまでも漆黒だ。卑劣漢なのに憎めないその黒い魅力は底がしれない。

僕はこの人が登場すると、つい頬が緩み、笑みがこぼれる。ちょうど、テレビ画面にアンパンマンが登場すると、笑みがこぼれる子どもみたいに。もっとも『仁義なき』の方の頭に詰まっているのは、餡(あん)ではなく、人間の暗(あん)である。

坂井鉄也(松方弘樹)

ドスの効いた声の迫力はずっと耳に残り続ける。ギラギラと脂の乗った野心に不足はなく、酷薄なアウトローかくあるべしといった感のある人物だ。それでいて、どこか人の良さも感じられるのが不思議。

映画の後半、広野が胸のポケットに手を入れたのを見た、坂井が慌てふためいて命乞いして奇声をあげるシーンは鮮烈な印象を残す。それにしてもどこからあんな声が出るのだろう? 素晴らしく芸域の広い役者だ。

若杉寛(梅宮辰夫)

広能昌三とは違って、冷徹というより冷酷タイプの人物。 「突破者」という形容がぴったりで、男気も肝っ玉も広能の互角、いやそれ以上だろう。 若かりし梅宮辰夫がこれほどまでに、鋭角的でぐいぐい食い込んでくる役者だったとは……驚くしかない。

印象的なシーンは映画の冒頭。収監された若杉が、広能と義兄弟の契りを結び、保釈目的でカミソリで腹を裂くシーンは壮絶。見るのに胆力がいる。若杉のような土性骨をもつアウトローが実際に存在したと思うと戦後の日本社会の奥深さに畏敬の念を禁じえない。

『仁義なき戦い』作品情報

監督深作欣二
脚本笠原和夫
撮影吉田貞次
音楽津島利章
原作飯干晃一
出演・広能昌三・・・菅原文太
・山守義雄・・・金子信雄
・坂井鉄也・・・松方弘樹
・矢野修司・・・曽根晴美
・若杉寛・・・梅宮 辰夫
・新開宇市・・・三上真一郎
ジャンル任侠/アクション

ストーリー

敗戦直後の広島県呉市。復員兵、広能昌三(菅原文太)は、山守義雄率いる組の鉄砲玉となり、土居組組長を殺害。刑に服す。広能は山守組で地歩を固めながら権勢を誇っていく。だが山守組では、派閥による内部抗争が勃発。坂井鉄也(松方弘樹)や新開宇市(三上真一郎)といったアウトローたちが血みどろの戦いを繰り広げていく……

仁義なき予測不能時代を生き抜くために大切な、懐の深いヒューマンスキル~『仁義なき戦い』コラム

わしらぁどこで道間違えたんかのう

これは、『仁義なき戦い』のなかで、松方弘樹演じる、坂井が言うセリフなんですね。「わしら、どこで道 間違えたんかのう……」
この、ワイルドな自己述懐、クールな自己省察こそ、仁義なき予測不能時代を生き抜くために大切な、懐の深いヒューマンスキルだと僕は考えています。

現在は、3年先の将来さえまともに予測できない変化に富んだ時代です。「将来を予測してから行動する」というふるまいそのものがどうにもスジが悪い。未来予測を断念して、まず動く。胸算するのではなく、目の前の道を突き進んでみるという、突破者的な「断念」が求められています。

そう、断念こそがパワーなんですね。

しかるに、多くの人々は、「後悔したくない」という気持ちが強いあまり、断念しきれていないのではないでしょうか。その結果、行動に精彩を欠き、思いきった前進ができないでいる。「間違った道を選びたくない」という気持ちが強いため、スタート地点にすら立とうとしない。面倒な立場になるのを避けている。

断念することで、何らかの不利益をこうむるのではありません。断念すべきことをしっかり断念しきれていないから、迷いが生まれ行動力が抑制されて、利益を享受できないのではないでしょうか。断ち切ることで、諦めきることで、パッと開かれる境地というものがある。そう考えたら、未来がわからないまま進み続けて、あとから、「わしぃ、どこで道 間違えたんかのう……」と振り返るほうが、よっぽど人間らしいではありませんか。

少なくとも、そういう振り返りや苦みのきいた内省には、人間の「業」を正面きって受け止める謙虚な心持ちがあります。「原罪」を背負った人間の愚かさを、まるごと肯定する諦観が基底に流れている。僕が、懐の深いヒューマンスキルと申し上げるゆえんです。

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※ただし時期によっては『仁義なき戦い』の配信およびレンタル期間が終了している可能性があります。

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