『君の名は。』(2016年)
声の出演:上白石萌音/神木隆之介
第40回(2017年)日本アカデミー賞最優秀脚本賞。興行収入250億円以上の大ヒットアニメーション映画。1000年に1度、彗星が接近しているなか、本当は出会うことがなかった女子高生・三葉と、男子高校生・瀧が、不思議な入れ替わりを繰り返し、息を呑むドラマが展開してゆく。新海誠が手がけた、美しくもせつない物語『君の名は。』の見どころ、感想、レビュー。
- 『君の名は。』のあらすじは?
- 感想・レビューはどう?
- 『君の名は。』のみどころは?
- 登場人物・声優の魅力は?
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『君の名は。』作品情報
映画を観ての一筆感想
監督/脚本/原作 | 新海誠 |
音楽 | RADWIMPS |
声の出演 | ・宮水 三葉・・・上白石萌音 ・立花 瀧・・・神木隆之介 ・宮水 俊樹・・・てらそま まさき ・宮水 一葉・・・市原悦子 ・奥寺 ミキ・・・長澤まさみ ・宮水 四葉・・・谷花音 ・勅使河原 克彦・・・成田凌 |
上映時間 | 107分 |
ジャンル | ファンタジー/恋愛 |
あらすじ
飛騨の田舎町・糸守町に住む女子高生・三葉と、東京都心に住む男子高生・瀧は、ある日、不思議な体験をする。
なんと、ふたりのからだが入れ替わっているのだ。
三葉の体になった瀧は激しく困惑する。
いっぽう瀧の体になった三葉も当初は驚くものの、憧れていた東京に圧倒されつつ満喫するのだった。
夢でも幻でもなく、現実に入れ替わっていることを確信したふたりは、スマホで使ってメッセージを交わして、意思疎通をはかる。
だが、ある日を境に、入れ替わりがぱったり途絶えてしまう。
三葉への想いが募り、矢も盾もたまらず飛騨へ向かった瀧は、そこで衝撃の事実を知らされるのだった……
『君の名は。』の見どころ・感想・レビュー
四の五の言わんと、さっさと観はったらよろしいですやん
もっと早く観ておけばよかったなぁ……
『君の名は。』を観終えての感想だ。
どうしてグズグズと言い訳して観なかったのだろう。
『パンダコパンダ』(1972年)を観たときにもそう感じた。
やっぱりアニメということで敬遠していたのだと思う。
アニメになると、いまいち没入しにくい。(なぜか『パンダコパンダ』は夢中で見入ったけど)
アニメも実写映画も、同じフィクションなんだからと頭で理解しているものの、からだが受けつけず、つい途中で観ることを断念したアニメの数は数知れず……。
(あるいは、いつのまにか体を前後に揺らして「船を漕いだ」のは数知れず……)
そんなわけで、『君の名は。』を観る前も、途中で再生停止かな……と暗い気持ちだったのだけれど、開始して5分も経たないうちに、物語の世界にひきこまれた。
アニメというにはあまりにも懐が深すぎるし、「恋愛青春もの」というにはあまりにも物語的スケールが大きすぎるかもしれない。
それでいて、晦渋な部分はきれいさっぱり取り除かれ、凹凸もなだらかにされている。
スタイリッシュで優美な作風に仕上がっていて、「老若男女、来る者拒まず」という感じだ。
思うに、『君の名は。』の ”ジャンルの特定できなさ” が、強烈な訴求力になっているのだろう。
同時代的共感を得て、大ヒットしたのも納得。
もし、あなたがまだ『君の名は。』を観ておられないなら、先入観は捨てて観たほうがいい。
「今さら見たところで……」
「だいたいあらすじはわかっているから……」
「ファンタジーはちょっと苦手……」
とか、四の五の言わんと、さっさと観はったらよろしいですやん!と背中を押したくなるほど、掛け値なしに楽しめる映画だから。
『君の名は。』を観終えたあと、まるで、長期間閉め切った部屋の窓をぱっと大きく開いて、清新でクリアな大気をとりこんだ気分になること請け合いだ。
アニメでしか表現できない世界を体現したことで、アニメであることを忘れさせてしまう
「男女の入れ替わり」
「謎の彗星」
「巫女の一族」
こういうお膳立てそのものは、さして新しくはない。
新しくはない素材同士の「結び方」がやさしくて、これ見よがしではないところが「新しい」のである。
『君の名は。』の妙味は、甘酸っぱいだけではないところにあると思う。
塩味と苦味にも不足はない。
物語の細部の至るところに、クリエイター新海誠氏の作家的野心と穏やかな諦観が感じられて、「ふぅ……」と脱力してしまった。
みずみずしい情感を盛り上げる印象的なシーンには事欠かない。
わけても飛騨の自然描写は素晴らしい。
草花の香り、木々を吹き抜ける風の匂いが画面から漂ってくるかのようだ。
アニメーション技術の水準の高さをうかがわせる。
全体としては安心して身を委ねたくなるほど心地良い。
(三葉の「口噛み酒」のシーンには、なぜかわけもわからず、椅子から立ったり座ったりしたけれど)
もちろん、心根が震えるほどのドラマティックは展開も怠りなく用意されている。
観る側も、号泣する準備を怠りなくしておいた方がいいかもしれない。
僕は途中からこの映画がアニメーションであることを忘れてしまった。
アニメでしか表現できない世界を体現したみせた作品は、観客にアニメであることを忘れさせてしまうのだなぁと。
これは新海誠による映像的魔術なのかもしれない。
もし『君の名は。』にケチをつけるとしたら、物語の「隙きのなさ」だろうか。
僕にはちょっと出来すぎている感が否めない。
あまりにも見事におさまりすぎて、意地の悪い観賞の仕方さえ許してもらえないのだ。
映画というのは、そこそこ作品的な瑕疵があったほうが、、、あるいは少々鼻につく表現や耳につく不協和音があったほうが、、、ちょっと可愛かったりする。
主人公の三葉は十二分に可愛いけれど。。。
しっぽの先まで感傷に浸ってしまう自分をやさしく許せる、懐の深さ
主人公、三葉と瀧以外のキャラクターたちも鮮やかに粒立っている。
三葉の祖母・一葉の静謐さ、妹・四葉のこまっしゃくれた可愛らしさ、親友の勅使河原と名取早耶香の素朴なあたたかさ。
東京に住む瀧のまわりにいる人々も善良で温和。
まるで、柔軟剤でふわふわに洗い上がった衣類のような清潔さと優しさにあふれている。
むろん、上質な含羞も遺漏なく塗り込まれている。
新海誠氏の描出には、気負いや力みが感じられず、”楷書体” でさらっと仕上げて、あとはキャラクターがひとりでに歩き出すのを我慢強く待ち続けたかのようだ。
わけても、ふたりの人物の鮮烈な印象は忘れがたい。
ひとりめは、瀧のアルバイト先の先輩、奥寺 ミキ。
美人でものわかりのいい女性は、存在しないようで存在する。
存在するのは確信できるけれど、なぜか身の回りにはついぞ現れない。
それなら結局存在しないも同じやないか!といったタイプの女性である。
なぜかこの物語の世界観の中では、奥寺ミキだけが浮いているような気がした。
ふたりめは、三葉の父、宮水 俊樹。
妻であり、三葉の母である二葉を亡くしたあと、糸守町の町長になった人である。
真面目だが、いささか怜悧で理の勝った現実主義者というタイプに見えなくもない。
祖母・一葉によると、宮水の女系は「入れ替わり」を体験するという。
とすれば、亡き二葉が若かりし頃に入れ替わった相手は、俊樹その人だろうか。
そう考えると、この物語の世界がさらなる奥行きと広がりをもって展開してゆくようだ。
まるで見え方が違ってくる……なんとも不思議だけれど。
その懐の深さと広がりは、しっぽの先まで感傷に浸ってしまう自分をおおらかに許せるほどの度量をそなえている。
すっかり乾いていた心に、みずみずしさと潤いを取り戻させる「効」が、たしかにある。
まったく心憎いアニメだ。
繰り返し見るたびに、きっと新しい発見があるのだろう。
それくらい深く記憶に刻まれる映画なのに、なぜかタイトルが単純すぎて忘れてしまいそう……ええと、なんでしたっけ??? 君の名は……
『君の名は。』のキャスト・声優について
宮水 三葉
面映ゆげな表情やしぐさがチャーミングな女子高生。
三葉が巫女の姿で踊るシーンは、妙になまめかしい。
墨痕鮮やかというか、作画に力が入っているような気がする。
きっと大事な場面なんだろうと思う。
化粧っ気のない、みずみずしい青春の息吹や乙女の含羞が、ササクレ立ったおっさんの感性には小っ恥ずかしい。
目のやり場にこまる、甘酸っぱさだ。
自分の年齢を感じないではいられない。
素直でまっすぐな心持ちは、飛騨の土着性と現代性がほどよくブレンドされていて、透明感と清潔なイメージを与えている。
彼女のやさしい手触り、息遣いがじかに伝わってくるようだ。
声の出演:上白石萌音
三葉の声を演じる上白石萌音の、表情の付け方は実に控えめで、自信に満ちた謙虚さを感じられる。
時折みせる溌剌としたおてんばぶりも、品位と美質を損なっていない。
情緒に流されず、遺漏なくコントロールされた演技には、この人のしつけの良さが感じられる。
だからといって、ナチュラルに湧き上がってくるアドレッセンスの不安や喜びを無理に抑えつけていない。
もう少し、少女の生硬さや不安定さを強めに表現しても、この作品のみずみずしさは損なわれないと思うけど、それは望みすぎだろうか?
でもやっぱり、この人が持っている ”ノーフリル” の可愛らしさは捨てがたい。
そこには紛れもない本物の輝きがうかがえる。
立花 瀧
東京の男子高生だけあって、ちょっぴり気負いすぎな若者特有の覇気が「爽やかだなあ」と感心した。
あまりにも爽やかすぎて、目のやり場に困ってしまったくらいだ。
自分の高校時代を思い起こすと、瀧くんのようなすがすがしい男子とは、きっと仲良くなれなかっただろう。
月(瀧)とスッポン(僕)だ。
ところどころ青臭さが目につくものの、良心に従って正面からまっすぐ困難に拮抗していくにやぶさかでない。
ストレートに切り込んでいくことに寸分も躊躇しない。
信頼の置けるナイスガイだ。
社会に出て、人々に揉まれていくうちに、人性の機微を巧みにとらえ、おおらかに清濁に併せ呑んでゆくタイプだと思う。
部下にするにも、同僚にするにも、上司にするにも理想だろう。
声の出演:神木隆之介
心をこめて瀧の声を演じているのは、俳優・神木隆之介。
清涼感あふれるヴォイスから、この人のまめやかな性格がうかがえる。
気力充実な語りには、明快で淀みがなく、正確に過たず「句読点」を置いていくような声音だ。
ほとばしる想いを抑えに抑え、それでもあとからあふれてこみ上げてくるものを、ほろっと滲ませるのが巧い。
そこにはわざとらしさは微塵もなく、注意深く節度をきかせながら技術ではなく「心」で演じている。
俳優は、「あえて表現をしない表現」の有効性を熟知しているようだ。
だから外連味のない演技でも、しっかり観客のハートをつかんだのではないかと。
欲を言えば、少々、滑舌が悪さがあってもよかったかもしれない。
もっと表情に差す影を濃厚にして、屈託を表現してくれてもよかった。
でもそうなると、『君の名は。』の輝きは、いくぶん弱まるのだろうなぁ、と。
さいごに
『君の名は。』は以下にあてはまる方におすすめです。
- 甘酸っぱい気持ち、面映ゆい気分がご無沙汰な方
- 新感覚のアニメ映画を楽しみたい方
- 心にうるおい、みずみずしさを取り戻したい方
ぜひこの機会に、『君の名は。』をご覧になってください。
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今回、「U-NEXT」で『君の名は。』を視聴しました。「U-NEXT」のデメリットは、月額料金がちょっと高めなところです。動画配信サービスに毎月2,189円は「割高かも」とお感じになるかもしれません。ですが、「U-NEXT」の魅力は、名作映画の見放題だけではなく、料金に見合うだけのコスパの高さにあると感じました。『君の名は。』のほか、新海誠監督の作品や、数々の名作アニメ映画が楽しめます。