『ナイル殺人事件』感想※新作旧作を見比べてのレビュー

2022年版『ナイル殺人事件』

2022年ケネス・ブラナー監督『ナイル殺人事件』

1978年版『ナイル殺人事件』

1978年ジョン・ギラーミン監督『ナイル殺人事件』

ミステリの女王アガサ・クリスティの名作「ナイルに死す」の映画化。
ナイル河をクルーズする豪華客船で連続殺人事件が発生。
灰色の脳細胞をもつ名探偵エルキュール・ポアロが不可解な難事件に挑む。
『ナイル殺人事件』の新作(2022年制作)と旧作(1978年制作)を見比べての感想・レビュー。
ちなみに、1978年版は、第51回アカデミー衣裳デザイン賞受賞。

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  • みどころは?
  • 新作と旧作、それぞれの感想はどう?
  • 新作と旧作、どちらが面白い?
  • キャストの魅力は?
目次

『ナイル殺人事件』のあらすじ

リネット・リッジウェイは、若くして巨額の遺産を相続した令嬢で美貌の持ち主。
ある日、無二の親友ジャクリーンから婚約者サイモンを紹介されるが、リネットとサイモンはお互いひと目で惹かれあう。
やがてリネットは略奪愛に成功し、サイモンと結婚。
ジャクリーンは見捨てられてしまう。

新婚旅行先にエジプトを選び、豪華客船カルナーク号でナイルの船旅を楽しむサイモンとリネット夫妻。
だが、嫉妬に狂ったジャクリーンは執拗に夫妻につきまとう。

翌朝、リネットは何者かに射殺されていることが判明。

客船に乗り合わせたエルキュール・ポアロは、さっそく犯人捜しに乗り出す。
動機の点から考えれば、ジャクリーンが容疑者として濃厚だが、彼女にはあまりにも完璧過ぎるアリバイがあった。

やがて、第2の犯罪が起こってしまう……

作品情報(2022年版)

監督ケネス・ブラナー
脚本マイケル・グリーン
撮影ハリス・ザンバーラウコス
音楽パトリック・ドイル
出演・エルキュール・ポアロ・・・ケネス・ブラナー
・リネット・・・ガル・ガドット
・ジャクリーン・・・エマ・マッキー
・サイモン・・・アーミー・ハマー
・ルイーズ・・・ローズ・レスリー
・ヴァン=スカイラー・・・ジェニファー・ソーンダース
・ロザリー・・・レティーシャ・ライト
上映時間127分

作品情報(1978年版)

監督ジョン・ギラーミン
脚本アンソニー・シェイファー
撮影ジャック・カーディフ
音楽ニーノ・ロータ
出演・エルキュール・ポアロ・・・ピーター・ユスティノフ
・リネット・・・ロイス・チャイルズ
・ジャクリーン・・・ミア・ファロー
・サイモン・・・サイモン・マッコーキンデール
・ルイーズ・・・ジェーン・バーキン
・ヴァン=スカイラー・・・ベティ・デイビス
・ロザリー・・・オリヴィア・ハッセー
上映時間140分

『ナイル殺人事件』の感想

『ナイル殺人事件』、アガサ・クリスティの名作ですね。
『オリエント急行殺人事件』を見直す前に、2022年に『ナイル殺人事件』のリメイクが公開されたのでビデオ・オン・デマンドで視聴。

なぜか激しく心を揺さぶられるところがあって、名作の誉れ高い旧作(1978年)も見てしまいました。

言うまでもなく、どちらも同じストーリーです。
登場人物に若干の変更はありますが、犯人やトリックが変わるわけではありません。

卓越した人間洞察を持つアガサ・クリスティ原作です。
面白くないわけがないのですが、映像化に際して新作旧作ともに両監督の「物語解釈」が深く、映画としては文句のつけようがありません。

スリリングな謎解きも楽しめますが、僕の心をとらえたのは、登場人物たちの屈託のあでやかさでした。
欲をかいた人間の表情は色彩豊か。
情念の描き方はほどよい「ねこっちさ」で、コクのある人間ドラマとしても秀逸です。

そんな登場人物たちを演じているのは、新旧ともに、実力派俳優や名優ばかり。
曲者の絡ませ方がなんとも絶妙で、陳腐なサスペンスに堕することはありません。

2022年ケネス・ブラナー監督『ナイル殺人事件』のレビュー

スタイリッシュな古典
2022年版『ナイル殺人事件』を見て感じた印象を筆のすさびで表現

やはり最新作は、映像的に贅を凝らしていて、エジプトやナイル河の絶景には息を呑んでしまいました。
70ミリフィルムで撮影しているだけあって、エキゾチックな臨場感と没入感が素晴らしい。
古典的サスペンスミステリだけど、視覚的愉悦の大きいリゾート映画と言ってもいいでしょう。

もちろん人物の描き方もスタイリッシュ。
Blu-rayのパッケージからして、その圧倒的な洗練ぶりが伝わってくるでしょう。
リネット役のガル・ガドットのすらりとしたプロポーションが、2022年版『ナイル殺人事件』の映像的スマートさを表象しているかのようです。

ストーリーは緊迫感にあふれていて、127分間、退屈させるシーンはひとつもありません。
ひとつひとつの細かいシーンまで、シネマティックな美が行き届いています。

1978年ジョン・ギラーミン監督『ナイル殺人事件』のレビュー

落ち着いた艶めき
1978年版『ナイル殺人事件』を見て感じた印象を筆のすさびで表現

2022年版を見たあとでは、さすがに映像的には見劣りしてしまう1978年版。
しかし、このモダンすぎもしない、70年代のシネマティックな映像美が、ナイル河を進む豪華客船で繰り広げられるドラマにほどよく馴染んでいます。
しっとりと落ち着いた艶めきがあるのです。

すでにストーリーを知っていることを割り引いても、1978年の『ナイル殺人事件』のほうが、すっきりとわかりやすい。
セリフもシンプルで、晦渋な部分はさっぱり削ぎ落とされています。

全体的に人物描写は淡彩といえるかもしれません。
それだけに嫉妬や憎しみや殺意といった生々しい情念が恐いほど生々しく、慄然とさせられます。

格調高いストーリーテリングと、名探偵ポワロによる語り口の妙は、ミステリファンならずとも唸ってしまうでしょう。

ちなみに、1978年日本配給のエンディングに、「ミステリー・ナイル」という曲が挿入されていました。
『ナイル殺人事件』の世界観とはちょっとそぐわないよなぁ…と微苦笑してしまう曲調です。
それなりに味がありますが。

結局のところ、新作と旧作どちらが面白いか?

2022年版と1978年版、どちらも甲乙つけがたいほど完成度が高いミステリ映画でした。
人によって評価は分かれるでしょうが、いずれか一方が「決定的にダメ」と酷評するのはできないと思います。

2022年版も1978年版も、映像化するための色づけが慎重になされていて、原作のもつ格調を壊していません。
遺漏のない精緻な作りこみを感じさせるのです。

それでも、「いずれかを選べ!」と言われたら、僕は1978年版を取ります。
映像への没入感か、、物語への没入感か、、、いずれに重きを置くかで決めました。僕は「物語」を重く見たということですね。

1978年版『ナイル殺人事件』は、見る者を物語のなかにぐいぐいと引き込こんでいく力がことのほか強烈です。

いっぽう、2022年版『ナイル殺人事件』は、70ミリフィルムで撮影したエジプト・ナイルは壮観で、たっぷり陶酔できますが、まさにその美麗な映像美が、物語への没入を弱めているように感じました。

はたして『ナイル殺人事件』に、スタイリッシュさはそこまで必要なのか?ということです。

スタイリッシュな映像で統一するなら、人間の「闇」も遺漏なく描かなければバランスがとれなくなるでしょう。
2022年版における登場人物たちの「闇」の描出はリアルです。
小さなお子様なら、あるいは怖くなって泣いてしまうかもしれません。

けっして2022年版の演出がやり過ぎというわけではありませんが、個人的には、1978年度版『ナイル殺人事件』が醸し出す落ち着いた艶めきを「多」としたいです。

新作(2022年版)『ナイル殺人事件』キャストの感想

教養・知性のイメージ

ケネス・ブラナー(エルキュール・ポアロ)

制作・監督・主役とこなすこの人は、よほど『ナイル殺人事件』に思い入れがあったのでしょう。
ケネス・ブラナーによる、アガサ・クリスティ原作の「ナイルの死す」の映像化は、大胆かつカラフル。

1978年版を意識して、映像美で魅せようと心を砕いた姿勢を、惜しみなく称えたいです。

今作では、ポワロが第一次世界大戦で負傷したエピソードや、過去の悲しい恋も描かれていて、名探偵ポワロファンの人には感慨深いものがあるかもしれません。
新しく創造されたエルキュール・ポアロの原罪へのまなざしはどこまでも真率で透徹しています。

ときとして捜査が唐突になることもあるけれど、さいごまで名探偵の品位と矜持を高く保ち続け、「灰色の脳細胞」にふさわしい冷徹さを一貫させています。

ガル・ガドット(リネット)

ゴージャスにしてエレガント。
美しく滑らかな身のこなしで、莫大な財産を相続した資産家を演じています。
女優であり、モデルでもある彼女の肢体は、細部まで遺漏なく手入れが行き届いているようです。
科学的トレーニングも怠っていないのでしょう。

気力が充実した演技には、タメがあり、キレもある。
怜悧さと疑り深さを巧みに表現しています。

彼女が身体を動かすたびに、ナイルの灼熱と肌をなでるそよ風が伝わってきそうです。
『ナイル殺人事件』を見て、この麗人が主演している『ワンダーウーマン』を無性に見たくなりました。
この映画に出演しているガル・ガドットも十二分にワンダーウーマンですけれど。

エマ・マッキー(ジャクリーン)

体当たりで熱演しています。
婚約者を親友に奪われたジャクリーンの狂おしい嫉妬は、ややマイルドかな……という印象。
1978年版のジャクリーンがあまりにも抜きん出ているからそう思えるのかもしれませんが。

とはいえ、この人の正面からまっすぐ斬り込んでいくような無駄のない演技には、自然な伸びのある勢いがあって、彼女が演じる「ジャクリーン」にも確かな説得力が感じられます。
スタイリッシュな『ナイル殺人事件』にはぴったりの配役だと。

旧作(1978年版)『ナイル殺人事件』キャストの感想

エジプトイメージ

ピーター・ユスティノフ(エルキュール・ポアロ)

この人も名優ですね。
『スパルタカス』(1960年)のバタイアタス役で有名です。

ケネス・ブラナー演じるポワロが硬質の魅力なら、ピーター・ユスティノフ演じるポワロはふくよかな知性の魅力を感じさせます。
冷徹になりすぎることもなく、かといってユーモアにも流れない、中庸のポワロ。
しかし、脈打つ想いや叙情精神を忘れていません。

曲者多き乗客たちに尋問していく姿は、結論を急がない大人(たいじん)の風格、賢者の余裕がうかがえます。
ピーター・ユスティノフのポワロは、世界のミステリファンにも気持ちよく受け入れられたのではないでしょうか。

ロイス・チャイルズ(リネット)

こちらのリネットも十二分にエレガントですが、もう一段階非情さを引き上げたら、妖艶さが際立っていたかもしれません。
タイトにキュッと引き締められた筋肉質の演技で、女性の柔和さを注意深く封じ込めているようです。

この人の声はいいですね。
セクシーな残響が心をざわつかせます。
ためらいや言い淀みにそぐわない声質ではあるけれど、言葉に含みをもたせるには十分効果的な艶のあるヴォイスです。

ミア・ファロー(ジャクリーン)

「これやこれ!」と思わず唸ってしまうほどの狂気をはらんだ演技です。
この人の演じるジャクリーンには底の知れなさがあって戦慄を感じさせます。
十分過ぎるほど濃厚な「闇」。
「これやこれ!」です。

火鉢の中でくすぶっていた埋み火が突然、火柱が高く吹き上げるような嫉妬と憤怒。
ミア・ファローのエキセントリックな個性は『ナイル殺人事件』で見事に開花しているようです。

この人から匂い立つような色香は感じられません。
スタイリッシュとも言い難い。
しかし、どこか放っておけないガーリーな魅力にあふれ、年齢を重ねても衰えない可愛らしさがあります。
それでいて一筋縄ではいかない「圭角」と、周囲に流されない芯の強さを併せ持っているようです。
なにより、狂気に不足はありません。

1982年から公私ともにパートナーになるウディ・アレンは、ミア・ファローが放つエキセントリシティと内に秘めた狂気を深く慈しんだのではないでしょうか。

さいごに

『ナイル殺人事件』(新旧共通)は以下にあてはまる方におすすめです。

  • エキゾチックな雰囲気のミステリがお好きな方
  • 古典的な謎解きサスペンスを楽しみたい方

新作(2022年版)はこんな人におすすめです。

  • 映像への没入感を重視する方
  • 解像度の高い映像でエジプト・ナイル河の光景に酔いしれたい方
  • スタイリッシュで迫力のある映像でミステリを楽しみたい方

旧作(1978年版)はこんな人におすすめです。

  • 物語への没入感を重視する方
  • 落ち着いた異国情緒を堪能したい方
  • 名優たちの演技を味わいたい方

この機会に、『ナイル殺人事件』を楽しんでみてはいかがでしょう。

2022年公開の新作『ナイル殺人事件』をデジタル配信しているサービスは?

新『ナイル殺人事件』配信中のビデオオンデマンドサービス
  • Amazonプライム・ビデオ
  • ディズニープラス
  • Hulu
  • TELASA
  • You Tube
  • Google Play ムービー& TV
  • Apple TV

※ただし時期によっては配信およびレンタル期間が終了している可能性があります。

『ナイル殺人事件』の旧作(1978年)をデジタル配信しているサービスは?

旧『ナイル殺人事件』
  • Amazonプライム・ビデオ
  • U-NEXT
まめやか

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U-NEXTのデメリットは月額料金の高さでしょう。
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旧作『ナイル殺人事件』のほか、『地中海殺人事件』など、アガサ・クリスティ作品も楽しめます。

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