映画『秋刀魚の味』(1962年)感想※喜びと寂寥が混じりあったふくよかな無常感

『秋刀魚の味』(1962年)

『秋刀魚の味』(1962年)

主演:笠智衆/岩下志麻

家族のドラマをつくり続けてきた小津安二郎の最後の作品。初老の父が、身を固めない妙齢の娘に気を揉んで、もたつきながらも縁談を進めていく姿を、さらりとした水彩画のごときタッチで描いたホームドラマ。娘が嫁いだ夜の父の寂寥は、観客の心を激しく震わせる。何度見ても見飽きることのない『秋刀魚の味』の魅力をご紹介。

この映画、こんなあなたにおすすめです!
  • さっぱりとした昭和のホームドラマがお好みの方
  • 父と娘の「家族もの」が好きな方
  • 「そろそろ身を固めたい」とお考えの若い女性の方
  • 「家庭を持って立派な父になりたい」と考える若い男性の方
目次

『秋刀魚の味』感想

嫁ぐ娘に・・・父の寂しさ サンマのほろ苦き味
『秋刀魚の味』を見て感じた印象を筆のすさびで表現

父の寂しさ、味わいたくなる…

見るたびに違った味わいのある映画。平山家の年頃の娘が嫁に行くまでの悲喜こもごものドラマを、小津安二郎はさらりとした水彩タッチで描いている。さらりとしているものだから何気なく見ているうちに、いつのまにか作品世界に引き込まれて、その心地よさの虜になってしまう。すっかり小津ファンになるという成り行きだ。

理屈をこえて「父というのはいいものだなぁ…」としみじみと思えてくる。父の寂しさを味わいたくなるのだ。なんとも不思議だけれど……。

そんな『秋刀魚の味』は結婚を考えている若い人だけでなく、結婚はまだまだという人にも見ていただきたい。もちろん、嫁入り前のお嬢さんをもつ親御さんにも。

「秋刀魚の味」ってどんな味?

映画の中で、「秋刀魚の味」についての直接的な言及はない。周平たちはやたらと酒を飲んでいるだけである。では「秋刀魚の味」とはなんだろう?

思うに、「秋刀魚の味」とは、嫁ぎ先が決まった娘をもつ父の、充ち足りたやるせなさや、ふくよかな無常感の味わいのことなのかもしれない。手塩にかけて育ててきた娘を送り出す父の喜びと寂寥。それは旨みと苦みがないまぜになった秋刀魚の ”ワタ” の味に似ているのだろうか。

無性に秋刀魚定食が食べたくなった。

脇役の人々のスケッチにも味がある

娘が嫁に行くまでの平山家の物語が主題とはいえ、父・周平と娘・路子のやりとりを延々と映し出しているわけではない。むしろ平山家をとりまく人々をさらっとした筆致で描くことで、人生の転機を迎える父娘の輪郭を印象づけている。

ことに婚期を逃した娘と暮らす恩師・佐久間や、周平の長男夫婦たちの存在がまぶしい。脇役たちの何気ないエピソードが『秋刀魚の味』に芳醇な香気とふくよかな趣を与えて、嫁ぐ路子を送り出す周平をあたたかく励ましているかのようだ。

『秋刀魚の味』には明快な処世訓めいたものはない。それだけに映画を見る人それぞれの人生に平山家の喜びと哀しみが投影されて、否が応でも生へのまなざしを深めさせる作用があるように思う。

『秋刀魚の味』のキャストについて

平山周平(笠智衆)

小津作品ではおなじみの、おだやかで飄逸な父。娘の縁談を進める父のもたつきやぎこちなさには、笠智衆独特の枯れた風合いが感じられる。たどたどしさや不器用さは、滑稽というより、「ほお」と感心して感じ入ってしまう俳味といえばいいだろうか。すんなりと腑に落ちて心を和ませる。

娘が嫁いだ夜、バーで痛飲して、帰宅した周平の姿には激しく心を打たれた。笠智衆が描出する、水際立った枯れ方や、みずみずしい無常感は、俳優がその個性を徹底的に削ぎ落とした結実なのかもしれない。少なくとも小津安二郎監督はそれを切実に求めたのだろう。

平山路子(岩下志麻)

岩下志麻を眺めるだけでも、『秋刀魚の味』を鑑賞する価値がある。人をいい気分にさせる突き抜けた美しさを体現しているからだ。フルーティだけど腰のあるワインのように気持ちよく酔わせる美しさと言えばいいだろうか。

不思議なのは、小津安二郎がつくりだす、奢侈を排した庶民生活の世界に、岩下志麻の突き抜けた美しさがしっくり馴染んでいるところだ。でも考えてみたら、原節子の日本人離れした美しさも小津の作品世界にほどよく調和していたのだから、不思議でもなんでもないのかもしれない。

さわやかさと生硬さが共存した路子の存在感は、見る者に忘れがたい余韻を残す。

平山幸一/秋子(佐田啓二/岡田茉莉子)

濃い二枚目の長男・幸一はどこまでもマイペース。妻・秋子の尻に敷かれている。

面白かったのが、中古のゴルフクラブ欲しさに父親からお金を借りるところだ。幸一の安月給では分不相応であると難色を示す秋子に幸一はふてくされる。彼のいささか少年っぽい部分が佐田啓二のハンサムな面構えにそぐわなくて、思わず笑ってしまった。

秋子は鼻っ柱が強く、旦那に遠慮なくずけずけと意見するタイプの若妻だが、ときおり可愛らしさを垣間見せてハッとさせられる。勝ち気なキュートさが似合う女優である。

佐久間清太郎(東野英治郎)

周平や河合のかつての恩師。ヒョウタンというあだ名で呼ばれている。河合の口ぶりから、昔は相当厳格な教師だったのだろう。拳固が飛んで来るような指導だったのかもしれない。しかし今ではうらぶれた中華そば屋の店主である。

かつて自分の生徒だった周平や河合に卑屈になって酩酊するヒョウタン。そこはかとないおかしみを醸し出しているだけに、生きる悲哀が切々と胸に迫ってくる。

それにしても東野英治郎という役者の底光りが放たれるような演技である。小津安二郎はこの役者が腕に叩き込んだ技術に、絶大な信頼を置いていたように思う。

『秋刀魚の味』作品情報

監督小津安二郎
脚本小津安二郎/野田高梧
撮影厚田雄春
音楽斎藤高順
出演・平山周平・・・笠智衆
・平山路子・・・岩下志麻
・平山幸一・・・佐田啓二
・平山秋子・・・岡田茉莉子
・河合秀三・・・中村伸郎
・佐久間清太郎・・・東野英治郎
・トリスバーのマダム・・・岸田今日子
・坂本芳太郎・・・加東大介
・平山和夫・・・三上真一郎
・佐久間伴子・・・杉村春子
・三浦豊・・・吉田輝雄
上映時間112分
ジャンルホームドラマ

ストーリー

元海軍将校で今はサラリーマンとして働く平山周平(笠智衆)は男やもめ。周平は、娘の路子(岩下志麻)と次男で学生の和夫(三上真一郎)と3人で暮らしている。長男・幸一(佐田啓二)は結婚し、妻・秋子(岡田茉莉子)とアパート暮らし。

周平は、同級生の河合(中村伸郎)たちと学生時代のクラス会をすることを計画。今は中華そばの店を営む恩師の佐久間(東野英治郎)を招待する。佐久間は早くに妻を亡くしたため、主婦代わりに家事をすることになった娘は婚期を逸してしまう。

佐久間の家庭が他人事とは思えなくなった周平は、路子を嫁がせることを真剣に考え、河合からの縁談話に乗り気になる。ところが路子はにべもない返事だ。やがて、路子には好きな相手がいることがわかり……

まめやかコラム

戦争をくぐり抜けてきた人々がつくるホームドラマは一味ちがう

『秋刀魚の味』のストーリーにはさして関係ないですが、印象深いシーンがあります。

恩師・佐久間の中華そば店で、かつて周平が海軍で艦長だった頃の部下・坂本(加東大介)と偶然再会。ふたりトリスバーで飲むことになり、話題は、戦争の頃の話や、終戦直後の苦労話になります。(バーでは軍艦マーチが流れている)。

気持ちよく酔っ払った坂本から「もし戦争に勝ってたら、今頃、あなたも私も、ニューヨークだよ、ニューヨーク」と ”たられば” の話を切り出された周平は「けど、敗けてよかったじゃないか…」と穏やかに受け答えするのです。こういうやりとりが生き生きとして胸に迫ってきて、えならぬ感慨を禁じえません。

実際に戦中を生き抜いた役者たちによる演技には、しびれるような生々しさがあり、堪えられないおかしみがあり、刮目すべき気高さがあります。小津安二郎監督もまた戦争の時代を生き抜いた人。胸に去来する複雑な想いを俳優たちの演技に託しているのかもしれません。

小津作品に限ったことではありませんが、僕が昭和の日本映画を好むのは、戦争を体験した人たちのリアルに触れることができるからです。たとえ直接的に戦争を描かなくても、昭和の日本映画には戦争が色濃く反映されているような気がします。

戦争をくぐり抜けてきた作り手や役者たちから滲み出す灰汁(アク)や凄み。そして諦観をにじませた明るさ。それらが強烈に訴えかけてきて、唸らせるものがあるのです。恬淡としたホームドラマほど濃厚かもしれません。

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この記事の情報は2023年9月時点のものです。
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