映画『砂の器』感想・レビュー※半世紀経っても損なわれない輝き…

『砂の器』

『砂の器』(1974年)

主演:丹波哲郎/加藤剛/緒形拳

松本清張のベストセラーを野村芳太郎監督、橋本忍と山田洋次脚本で映画化に成功した昭和の名作。前半は殺人事件を追うベテラン刑事と若手刑事が活躍する秀逸なミステリー。後半からあまりにも暗い過去を背負う犯人の半生が明かされるヒューマンドラマ。第29回毎日映画コンクール大賞受賞の昭和の名作映画『砂の器』の感想・レビュー。

このページではこんな疑問を解決します!
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  • 感想・レビューはどう?
  • 『砂の器』のみどころは?
  • 登場人物・キャストの魅力は?
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目次

『砂の器』作品情報

監督野村芳太郎
脚本橋本忍/山田洋次
撮影川又昂
音楽芥川也寸志
原作松本清張
出演・今西栄太郎・・・丹波哲郎
・和賀英良・・・加藤剛
・吉村弘・・・森田健作
・三木謙一・・・緒形拳
・高木理恵子・・・島田陽子
・田所重喜・・・佐分利信
・田所佐知子・・・山口果林
・本浦千代吉・・・加藤嘉
・黒崎警部・・・稲葉義男
上映時間143分
ジャンルサスペンス

あらすじ

昭和46年東京・蒲田の国電操車場で60代くらいの男性の他殺死体が発見された。

警視庁のベテラン刑事・今西(丹波哲郎)と蒲田署の若手刑事・吉村(森田健作)は、前夜、駅付近のトリスバーで被害者と飲んでいた若い男の存在を洗い出す。

ホステスの供述によると、このふたりのやりとりに、”カメダ” という言葉が繰り返し出てきたという。

今西は、”カメダ” が人名ではなく、地名であるとの仮説を立てるが捜査は難航。
だが意外なところから新事実が発覚し、状況は大きく進展する。

今西と吉村による執念の追跡によって、捜査線上に新進気鋭の作曲家、和賀英良(加藤剛)の名が浮かび上がる……

『砂の器』の感想・みどころ・レビュー

『砂の器』感想・レビュー

「本物」がもつ、いぶし銀の輝き、芳香

1974年の作品。
この頃の日本映画には、凄みと艶めきがある。
作り手たちの想念や屈託がビビットに伝わってくるからだろうか、理屈を超えておもしろく、噛みごたえがある名作だ。

むろん今の映画がダメと申し上げているわけではない。
2020年代だって、すばらしい日本映画は続々と作られている(はずです)。

もっと新作映画に心を開いて、映画館に足を運ぼうとも思うが、昭和の名作が放つ、なんとも言えぬ輝きと芳香には抗し難い魅惑がある。
だからついつい見入ってしまう。

やはり映画というのは、長い年月の検証を受けなければ、その作品が内に秘めた光輝をうまく解き放てないのかもしれない。

では『砂の器』はどうだろう?
半世紀経っても、この作品がもつみずみずしさはまったく損なわれていない。
いい意味でアクが抜けて、いぶし銀の輝きを放っている。

この映画のハイライトであり、映画のパッケージにもなっている、父と子の放浪シーンは切なくも美しい。
撮影・川又昂による職人芸の精華といえよう。
名作『砂の器』のアイコンとなっている。

原作をリスペクトしつつも凌駕した名作

松本清張原作の「砂の器」は、累計460万部のベストセラー。
原作を読んでから映画を観ると、そのスマートな換骨奪胎の手際よさに驚いてしまう。

監督・野村芳太郎の辣腕も大きいですが、特筆すべきは、脚本の橋本忍と山田洋次の仕事だ。
原作をリスペクトしつつも凌駕した映像作品に仕上がったのは、脚本に負うところが大きい。

松本清張の小説はトリッキーな犯人探しの面白さが売りではなく、犯罪が起きたバックグラウンドに踏み込んで、日本社会の暗部や人間の業に照らし出す作風だった。
作家の世界観を壊すことなく、映画用に磨き上げたセリフは、シンプルかつ明快、それでいて骨太。
晦渋さは微塵もない。

そして忘れてはいけないのが、芥川也寸志の音楽。
和賀英良(加藤剛)が奏でる哀切で荘厳なメロディーは、純度の高い叙情を脈打たせて、いやましに物語を盛り上げる。

ウィスキーのコマーシャルで「なにも足さない。なにも引かない」という名文句があるが、優れた脚本と音楽に恵まれた『砂の器』にぴったり当てはまる表現といえよう。
必要にして十分な重厚さを保持している。

『砂の器』は何度もテレビドラマ化されているが、1974年公開の劇場版がもつ重厚感には遠く及ばない。
『砂の器』以外にも清張作品は数多く映像化されているけれども、ほとんどの作品に作家本人は渋面を崩さなかったそうである。
しかし『砂の器』の出来映えには満足したとのこと。

あるいは、この社会派推理作家は、自分の原作を、映像メディアに超えてほしかったのかもしれない。

グッとくるオールスターキャスト

厳粛な作品であるにもかかわらず、『砂の器』を観ながら頬が緩みっぱなしだったのは、次から次に名優たちが登場するからだ。

「ああこれはオールスターキャストの映画なんだな」と納得。

主役の丹波哲郎に、加藤剛は言うにも及ばず、丹波の上司は、むさ苦しい人間味を発散させている稲葉義男。
森田健作に島田陽子、山口果林といった当時の若手俳優たちの脇を固めるのが加藤嘉、佐分利信、緒形拳、渥美清といった名優・実力派・ベテランたち。

笠智衆に浜村純、殿山泰司、穂積隆信、菅井きん、春川ますみといった役者も登場。

一筋縄ではいかない俳優たちの存在感を懐深く受け入れて、『砂の器』は物語として、いよいよ厚みと渋みが加わって、じゅうぶんすぎるくらい熟しきっている
その「熟れ方」にグッとくる。

僕は、今回晩ごはんを食べながら『砂の器』を観ていたのだけれど、白ごはんに海苔、おみおつけ以外におかずは用意しなかった。
なぜなら、『砂の器』を観ているだけで、じゅわっと旨みだしがあふれてきて、何杯でもおかわりできるからだ。

まったくこの映画には、しっぽの先までいいダシが利いている。

ここまで濃い俳優たちを勢揃いさせたら、ふだん映画を観ない人でもしびれるくらいにグッとくるのは間違いない。
きっとグッとくる。
・・・なんだか変なレビューで申し訳ありません。

『砂の器』のキャストについての感想

今西栄太郎(丹波哲郎)

苦み走った快男児。
この頃の丹波哲郎には勢いがあると同時に、透徹した諦観が感じられる。

結論を急がない懐の深さはいかにもベテラン刑事らしい。
若い刑事に対する配慮も行き届いている。
当時「理想の上司ランキング」があったとすれば、丹波哲郎演じる今西刑事はおそらく上位にランクインしていただろう。

実際の丹波哲郎は庶民には手の届かない存在だったけれど、今西刑事はどこまでも庶民的。
物腰は穏やかで老獪さを感じさせない。

物語後半、いかにも「昭和」を感じさせるものものしい捜査会議で、この人が犯人の生い立ちを語るシーンは何度見ても胸に迫る。
凛々しく迷いのない語りは、観客の耳に深く響き渡り、心の奥底を揺さぶってくる。

『砂の器』という名作は、誰がなんと言おうと丹波哲郎がいなければ成り立たない。

和賀英良(加藤剛)

きりっとした涼しい二枚目である。
この映画では、島田陽子、山口果林を相手に色男ぶりを発揮しているが、やはりこの人と似合う女優は栗原小巻だろうなと思う。ふたりのツーショットがもたらす涼感には誰もかなわない。

壮絶な半生を乗り越えたきた和賀英良。
音楽家にしては、屈託や陰影が薄いのかなと感じたが、よく考えてみると、これでいいのだと納得。
屈託や陰影が薄いのは、クールに徹する必要があるからだ。
和賀英良が、自らの宿命に、人間の「生」に、徹底して冷徹にならなければ『砂の器』という物語は成立しない。

ちなみに加藤剛は、この当時から「大岡越前」に出演していた。
大岡越前守忠相は、この俳優にとってライフワークだったのだろう。
和賀英良が登場するたびに、「大岡越前」のテーマ曲が自動的に頭の中で流れ出して閉口した。

三木謙一(緒形拳)

『砂の器』は今西刑事の物語であり、和賀英良の物語でもある。
そして、三木謙一の物語でもある。
この人の抜きん出た善良さが、ある親子の運命を大きく変えてしまう。
それは幸福な転換だったのか、それとも……。

人間の運命というものをしみじみと考えさせられる重要人物を緒形拳が演じたのは、『砂の器』にとって幸福なことだったと思う。
この人は演技力は文句のつけようがない。
人格者から鬼畜野郎まで、闊達自在に演じられるところが素晴らしい。

今回の三木謙一の役柄もいいけれども、やはり人間の「業」に向き合った映画の中で、大胆に荒れ狂う緒形拳にしびれてしまう。

吉村弘(森田健作)

和賀英良とは対照的な、フレッシュでハツラツとした青年刑事。
元気いっぱいで始終、方々を飛び跳ねているような陽性の演技である。

吉村は、ベテラン今西刑事の東北行きに同行。
呼吸ぴったりな今西と吉村のケミストリーの作用によって、ものものしくトーンが暗くなりがちな物語の明度と彩度を、ボリュームひとつまみぶんほど高めている。

森田健作氏ご本人のことはわからないけれど、吉村刑事の性格は、素直でのびやか、隠しごとは一切なしというタイプの人だ。
爽やかな汗を光らせながら竹刀をふるう剣道着姿のイメージを、『砂の器』の中でも崩していない。

しかし、あまりに風通しがよすぎるゆえに、僕のような人間にはいささかまぶしすぎる。
どうしても、人格の起伏や陰影、襞(ひだ)を見たくなるのだ。
そう考えると、森田氏にもう少しいたずらっぽさがあってもよかったのにと思う。。。

ところで、森田健作氏は『砂の器』撮影の頃、将来自分が政治家になることを想像していたのだろうか?
当て推量だけれど、、、若かりし森田氏のキャリアプランに、少しくらい政界進出は意識されていたように思う。
そんな演技だ。

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