『我輩はカモである』感想※炸裂するナンセンスギャグ、風刺は痛烈

『我輩はカモである』

『我輩はカモである』(1933年)

主演:グルーチョ・マルクス/チコ・マルクス/ハーポ・マルクス

1930年代~40年代にかけて、次々とお笑い映画を送り出したマルクス兄弟の傑作。当時、ヨーロッパではナチズムが台頭し、きなくさい戦争ムードが漂っていた世相を痛烈に風刺。興行成績はイマイチだったが、ナンセンスな笑いが炸裂する映画だけに後年になって評価される。影響を受けた映画人やコメディアンは数知れず。そんなマルクス兄弟の魅力が凝縮した『我輩はカモである』の感想・レビュー。

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目次

『我輩はカモである』作品情報

監督レオ・マッケリー
脚本バート・カルマー / ハリー・ルビー
撮影ヘンリー・シャープ
音楽バート・カルマー / ハリー・ルビー
出演・ファイアフライ・・・グルーチョ・マルクス
・チコリーニ・・・チコ・マルクス
・ピンキー・・・ハーポ・マルクス
・ローランド・・・ゼッポ・マルクス
・ティーズデール・・・マーガレット・デュモント
・トレンティーノ・・・ルイス・カルハーン
上映時間68分
ジャンルコメディ

※『我輩はカモである』の原題は「Duck Soup」。
いわゆるスラングで、「たやすい」という意味があります。

あらすじ

物語の舞台は、架空の国フリードニア共和国とシルベニア。フリードニアは深刻な財政難に陥っていたため、大富豪の未亡人グロリア・ティーズデール夫人に2000万ドルの資金援助を依頼。

ティーズデール夫人の条件は、彼女がご執心の男、ファイアフライ(グルーチョ・マルクス)を首相にするというもの。一夜のうちに国家のトップに君臨したファイアフライのやることなすことはハチャメチャで、共和国は大混乱。

いっぽう隣国のシルベニアの大使トレンティーノは、なんとかフリードニアをわがものにしようと画策。スパイのチコリーニ(チコ・マルクス)とピンキー(ハーポ・マルクス)をフリードニアに送り込むが、この2人のスパイもハチャメチャで……

『我輩はカモである』の感想・レビュー・見どころ

『我輩はカモである』感想・レビュー

後世の芸人たちの汲めども尽くせぬ潤沢な引用源

1933年の映画です。きょうび「マルクス兄弟」を知っている若い人は少ないでしょう。でもこの兄弟の知らないままで済ませるのはいささかもったいない。なぜなら、後世のコメディアンたちの汲めども尽くせぬ潤沢な引用源だからです。

マルクス兄弟のシュールでナンセンスなギャグの数々は、今見てもまったく古くありません。いまだ「賞味期限」は有効なのです。というのも彼らのギャグは理屈で笑わせるものではないから。

子どもが見てもゲラゲラ笑ってしまうような不条理な笑いには、人間存在の深淵に志向しているように思います。
(多くの優れた文学作品にも巧みに不条理な笑いが編み込まれていて、物語にふくらみと奥行きをもたらしています)

マルクス兄弟を規範として仰いだ映画人やコメディアンが少なくないのは、笑いが持つ影響力を、知ってか知らずか、マルクス兄弟は自家薬籠中の物にしていたからです。たとえばチャーリー・チャップリン。『我輩はカモである』から7年後に、『独裁者』(1940年)を制作。コメディでありながら、風刺をきかせた名作です。チャップリンの平和思想が丹念に塗り込まれている。

日本のコメディアンのなかで、マルクス兄弟の影響を強烈に感じさせるのはドリフターズです。ヒゲダンスは、一切喋らないハーポ・マルクスのパントマイム芸を彷彿とさせます。

現在テレビで活躍している芸人さんたちも、チャップリンやドリフターズの影響を受けているとしたら、マルクス兄弟とも無縁ではありません。

粒立った個性を放つ兄弟

マルクス兄弟の魅力は、兄弟それぞれが強烈な個性の輝きは放ち、見事に粒立っているということ。

ファイアフライを演じる、グルーチョは典型的な口八丁タイプ。歯に衣着せぬという慣用表現では足りないほど、むき出しの毒舌で周囲を煙に巻きます。

スパイのひとり、チコリーニを演じるチコは、ちゃらんぽらんで「テキトー」を絵に描いたような男。高田純次氏といい勝負ができそうです。

もうひとりのスパイ、ピンキーを演じるハーポもけっさくです。まったく喋らないかわりに、ズボンにはさんだクラクションとパントマイムで滑稽に意思表示します。

もうひとり、ファイアフライの秘書役を演じた、ゼッポ・マルクス。兄弟で唯一、まじめなキャラクター。もっとも、ゼッポは『我輩はカモである』をさいごにマルクス兄弟の映画から離れてしまいましたが……。

ことほど左様に、兄弟それぞれの尖った個性がぶつかりあって、愉快な破綻を含んだ笑いが炸裂するのです。

映画にこめられた、卓越した風刺力

『我輩はカモである』の公開当時、ドイツではアドルフ・ヒトラーが独裁体制を確立。アメリカはルーズベルト大統領がニューディール政策が推し進めました。

極東の国、日本はどうだったか? 国際連盟を脱退して、世界から孤立化していくのです。

かように世界は一気にきなくさくなった時代に、『我輩はカモである』が上映されたことを思うと感慨深いものがあります。滑稽な瞬間芸を連発するコメディのなかに、風刺がこめられるのは自然の道理といえましょう。わけても、マルクス兄弟の映画にこめられた風刺は、実に小味の利かせ方が堂に入っている。ゆえに風化せずに、リスペクトされ続けているのです。

映画の中で、グルーチョ・マルクス扮する大統領ファイアフライは、さしたる理由もなく隣国シルベニアに戦争を仕掛けます。戦争勃発の原因が、じつにくだらない個人の放恣や気まぐれの可能性を、『我輩はカモである』は笑いというかたちで提示しているのです。お笑い映画とはいえ、どこか慄然とさせられるところもなくはありません。

「笑い」とは、どこまでも反時代・反権力・反常識を母胎としつつ、ソリッドでシャープな風刺性が内包されるのかもしれません。「笑い」のもつ風刺性・攻撃性が、ときとして日常に埋没してしまうために見えにくくなっている ”時代の輪郭” を、鮮やかに浮かび上がらせるのではないかと。

『我輩はカモである』のキャストについて感想

『我輩はカモである』キャストについて

ファイアフライ(グルーチョ・マルクス)

「口からでまかせ」で周囲を困惑させる大統領を、緊張感を感じさせない演技でこなしています。僕はずっと、グルーチョが兄弟の長男だと思っていたのですが、実は三男坊だったんですね。

兄弟のなかでグルーチョは突出して話芸の才があります。だから「華」があるのでしょう。彼の辞書に「忖度」という文字は一切ない、軽妙でパンチのある毒舌はなぜか耳あたりがよく、マシンガントークにすっかり酩酊してしまう。

グルーチョの弁舌には、どこかウディ・アレンにも相通ずるものがあります。そういえば、『ハンナとその姉妹』でも、人税に絶望したウディ・アレンが映画館で観ていた作品が『我輩はカモである』でした。彼もまたマルクス兄弟の系譜に連なる芸人でありアーティストです。

チコリーニ(チコ・マルクス)

マルクス兄弟の長男。シルベニアのスパイを飄々と演じています。一歩下がって、弟たちを引き立てながら、彼自身の持ち味も十分発揮させています。

兄弟の中ではもっとも芸術性を感じさせると同時に、スマートなデカダンを漂わせています。胸奥に横たわる「闇」は深そうです。

ちゃらんぽらんで無責任なチロル帽の男は、愉快ななかにも人格に翳りがあって、なんとも言えぬ魅力をたたえています。

ピンキー(ハーポ・マルクス)

チコリーニの相棒ですが、この人は、ほとんどまともな仕事をしません。最初から最後までろくでもないことしかしない。しかも一切セリフがないのが、余計に爆笑を誘うようです。

映画に出演する前、マルクス兄弟はボードビルの舞台で活躍していましたが、ハーポの抜きん出たパントマイム芸を見た叔父が台詞を封印したとのこと。叔父の判断は、ハーポだけでなくマルクス兄弟全員に幸福な結実をもたらしたようです。

『我輩はカモである』でハーポは、コートの中からあらゆる突飛なものを取り出しては物語に滑稽味を添えます。ハサミを取り出して、なんでもかんでもカットしてしまう。ほとんど意味のないバカバカしさに得も言われぬ妙趣があります。

この喜劇役者の本心はどこにあるのか、おそらく身近な人も見定めがたいでしょう。日本で言えば渥美清がまさにそういうタイプかもしれません。自分の周囲にこういう人がきたら深刻なトラブルは避けがたいですが、遠くで見ているぶんには底抜けに楽しい。そういう人は、芸の道に進んだほうが価値ある人生を送れると思います。

少なくとも、ハーポ・マルクスはトリックスターです。陽気な秩序破壊者としての美質には目をみはるものがあります。

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