『ブルース・ブラザース』(1980年)
主演:ジョン ベルーシ/ダン エイクロイド
アメリカNBCの人気番組「サタデー・ナイト・ライブ」から誕生した「ブルース・ブラザース」を主人公に、ノリノリの音楽と破壊的な笑いが横溢したミュージカル・コメディ。R&Bの大物たちがゲスト出演したことも話題に。アナーキーでパワフルなこの映画の見どころと感想をご紹介。
『ブルース・ブラザース』作品情報
監督 | ジョン・ランディス |
制作 | ロバート・K・ワイス |
撮影 | スティーヴン・M・カッツ |
音楽 | アイラ・ニューボーン |
編集 | ジョージ・フォルシー・Jr. |
脚本 | ダン・エイクロイド/ジョン・ランディス |
出演 | “ジョリエット”・ジェイク・ブルース・・・ジョン・ベルーシ エルウッド・ブルース・・・ダン・エイクロイド カーティス・・・キャブ・キャロウェイ ジェームズ牧師・・・ジェームス・ブラウン マットの妻・・・アレサ・フランクリン レイ楽器店の店主・・・レイ・チャールズ 謎の女演 – キャリー・フィッシャー クック郡収税課職員・・・スティーヴン・スピルバーグ |
上映時間 | 132分 |
ジャンル | 音楽/コメディ |
あらすじ
刑期を終えて出所したばかりのジェイク(ジョン・ベルーシ)は、弟分のエルウッド(ダン・エイクロイド)とともに少年時代を過ごしたシカゴの養護施設を訪れる。院長兼シスターから、財政難で税金が払えず差し押さえの危機に直面していることを知らされたふたりは一肌脱ぐことに。だが期限は差し迫っている。まともに働いてもラチがあかない額だ。
そこでふたりは昔活動していた「ブルース・ブラザース・バンド」の再結成を思いつく。チャリティーライブを開催し、その収益で養護施設を救うのである。かつてのバンドメンバーを集めるべく東奔西走するうちにふたりは警察やナチ党を敵に回してしまう。そのうえ謎の女(キャリー・フィッシャー)からもド派手な兵器で命を狙われることに……
『ブルース・ブラザース』レビュー
ミュージカルとカーチェイスを取り入れた娯楽満載の映画
めちゃくちゃな映画。だけどすこぶる愉快。ミュージカルあり、アクションありの腰のすわったスラップスティックコメディです。アナーキーな笑いとはいえ、抜きん出たセンスが感じられます。
たとえば専門のブルース・ブラザース率いるバンドが畑違いのカントリーミュージック専門のバーで激しいブーイングを浴びたために、『ローハイド』のテーマを歌うのはなかなか洒落ていて笑いのツボをおさえています。
アクションの見せ場であるカーチェイスの演出にも手抜きはありません。戦車3台、数十台のパトカー、100名の警官隊、300名の州兵を登場させて、相当数の車がこっぱ微塵に破壊されるのは壮観です。見ていてスカッとします。もし難点があるとしたら、途中で何の映画かわけがわからなくなったことです。
「ひょうきん族」や「ドリフ」を彷彿させる、はちゃめちゃコメディ
この映画の元となる「サタデー・ナイト・ライブ」は、日本のバラエティ番組に大きな影響を与えています。
たとえば、「オレたちひょうきん族」のプロデューサー 横澤彪氏もこの番組を規範として仰いでいたそうです。そのためか『ブルース・ブラザース』のあらゆる場面で、忖度しない昭和のバラエティ番組の匂いが感じられて、懐かしいおかしさがこみあげてきました。突拍子もない勢いだけで笑いをとりにいくような、単純明快さが気持ちいい。
ストーリーはあってないようなものだけど、テンポがよく息をつく間もないほど、ラストまで一気に引き込まれてしまいます。監督ジョン・ランディスと共同脚本家ダン・エイクロイドの手掛けた破壊とギャグに彩られた世界は、あまりにもクレイジーで楽しすぎる。
いくらコメディといっても悪ふざけが過ぎると不快感がともなうものですが、この映画にはその心配はありません。ブルースやR&Bやソウルミュージックへのあふれんばかりの愛情とリスペクトが全編に横溢していて、手触りがあたたかくやさしいからです。
『ブルース・ブラザース』のキャストについて
ジェイク・ブルース(ジョン・ベルーシ)
芸達者な人です。たくさんの引き出しから、いろんな「芸」を楽しげに繰り出してきます。しかも予測不可能な行動で、お客を驚かすタイプだから、見飽きることがありません。この人はエンターテイナーとしてのセンスが抜群なため、小賢しさやいかがわしさが卑しく見えないのです。
細かい矛盾や、嘘さえ気にならなくならないのは、技術というよりセンスなんでしょうね。キャリー・フィッシャーにミサイルや火炎放射で攻撃されても、何食わぬ顔で、ブラックスーツの土埃を払い落とす姿には思わず笑ってしまいます。たたずまいで笑わせる芸です。
ジョン・ベルーシは『ブルース・ブラザース』から2年後の1982年、薬物過剰摂取で死去しました。33歳は年齢はあまりにも若い。いまさら言っても詮無いことですが、もっとこの人のコメディを見たかったです。
エルウッド・ブルース(ダン・エイクロイド)
ベルーシ同様、「サタデー・ナイト・ライブ」から飛び出した人気コメディアン。相方のベルーシとの呼吸はぴったり。精悍で、エッジがきいていて、とことんアナーキーです。あらゆるものをなぎ倒しながら、バンドを再結成し成養護施設を救うために邁進します。
ハードなカーチェイスで汗や脂や土ぼこりに塗れた姿はタフでカッコいい。給油所でツイッギー演じる女性を誘うシーンでは、軽薄な二枚目ぶりを発揮して、これもなかなかサマになっています。
ダン・エイクロイドはこの人は本作や『ゴーストバスターズ』(1984年)では脚本家としても活躍。また『ドライビング Miss デイジー』(1989年)で、ふくよかな性格俳優として独特の存在感を見せました。ベルーシとはまた性質の異なる才人です。
謎の女(キャリー・フィッシャー)
『スターウォーズ』のレイア姫として有名な女優。
『ブルース・ブラザース』におけるキャリー・フィッシャーも捨て難い魅力にあふれています。化粧っ気なし女のしたたかさと、惚れた男にとことん尽くしてしまう女の ”さが” をチャーミングに表現。後年は『恋人たちの予感』で、しっとり落ち着いた大人の女性の演技を見せています。芸域の広い人です。
牧師(ジェームズ・ブラウン)
映画の前半で登場するジェームズ・ブラウンは凄まじいインパクトを放っています。教会の神父として説教しているうちに、だんだん雲行きが怪しくなって、いつのまにか聴衆が熱狂的に踊り歌うコンサートになっていく。
JBの芸風は、バラけすぎて自由すぎてもはや歌としての体をなしていません。そこに堪えられない魅力があるのですが……。存在自体で観客を魅了するJBのカリスマ性が見事に表現されています。
バンド仲間マットの妻(アレサ・フランクリン)
「ブルース・ブラザース・バンド」のギター担当マットの妻役として出演。マットは妻とソウルフード店を切り盛りしていますが、ベルーシとエイクロイドに誘われてバンド再加入に前向きな様子。ところが妻のアレサ・フランクリンが夫に再考を促すために踊って歌い出す。「あんた、考え直しなさい」と。
彼女のパフォーマンスには母なる大地のエネルギーが満ち溢れていて、めんどくさそうな感傷が入り込む余地がありません。ベルーシとエイクロイドも、アレサ・フランクリンの歌に合わせて一緒に踊っているのには笑ってしまう。
レイ楽器店店主(レイ・チャールズ)
ベルーシとエイクロイドが楽器を買うために訪れた店の店主。からだをゆすりながら伸びのある歌声で「Shake A Tail Feather」で披露しています。レイ・チャールズが歌うと、外にいる群衆まで陽気に踊りだす。この人もまた突き抜けたレジェンドであり、そのパフォーマンスには見るべきものがあります。
カーティス(キャブ・キャロウェイ)
主役のふたりが育った養護施設の管理人として出演。往年のジャズ・シンガー、キャブ・キャロウェイが映画に出演するというだけで胸をときめかせが音楽ファンは少なくないでしょう。
映画の後半でこの人が披露する「ミニー・ザ・ムーチャー」にはなんとも言えない場末感が濃厚にたちこめていて、こちらもつい「ハーリ、ハリハリホー!」と巻き込まれてしまう。エンターテイメントの極意をつかんでいそうな立ち居振る舞いでした。
善悪を超越した、アナーキーな突破力の効用~『ブルース・ブラザース』コラム
細かいことは気にせずに、おおらかな気持ちで楽しめる映画です。酸味と辛味が激しいので、薄味の静かな映画を求めている人にはちょっと刺激が強すぎるかもしれません。でも見終えたらスカッとして、元気ハツラツになれること請け合いです。
『ブルース・ブラザース』を見ると、どういうわけか気が大きくなるようです。仕事や日常の小さな悩みにこだわっている自分ががバカバカしくなる。「なんと小さなこと悩んでいるのだろう」と、少し広い場所から、自分を取り巻く状況を俯瞰できるのですね。
おそらく、主役のベルーシとエイクロイドの清々しいほど無反省な突破力に刺激を受けて、視野がワイドに広がっているのでしょう。
映画の中でベルーシとエイクロイドは、警察やナチ党、カントリーウエスタンのバンド、キャリー・フィッシャー演じる謎の女に狙われながらも、ひるむことなく、バンドを結成しライブを開催するために八方手を尽くします。まともな人間なら、すっかり怖気づいてメンタルが持たないところですが、彼らはアナーキーな突破力で乗り切ろうとします。
当然僕たち観客はフィクションだとわかっている。わかっていても、彼らの超人的なエネルギーと毒気に当てられて、快活でポジティブな気分になるのです。しかもこの映画は、ノリの良いパワフルな音楽を味方につけています。音楽に促されて、「停滞なんてしていられない、行動あるのみ」と、良い意味で向こう見ずな気持ちにさせられるのです。
人間は、厳しい現実と切り結ぶための勇気と力をフィクションに求めます。表面的な善悪はどうあれ、アナーキーな突破力をもつブルース・ブラザースは、現実で格闘する人にもリアルでパワフルな活力を与えてくれる頼もしい存在といえるでしょう。
こんなあなたに『ブルース・ブラザース』を見てほしい
- 最近のおとなしいアクション映画に飽き足らないものを感じている方
- R&B、ソウルミュージックに目がない方
- ド派手なカーチェイスが好きな方
- ストーリーよりもノリのよいコメディが好きな方
- 80年代のお笑い番組が好きな方
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