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『カサブランカ』動画視聴記※違いのわかる大人になりたい人が見るべき映画

カサブランカ(1942年)

主演:ハンフリー・ボガート/イングリッド・バーグマン

第16回(1943年)アカデミー賞、作品賞、監督賞、脚色賞を獲得。「君の瞳に乾杯」の名セリフがあまりにも有名なオールタイム・ベスト常連の名作。日本でも終戦後に公開されて大ヒット。ハンフリー・ボガートとイングリッド・バーグマンの2大スターが共演した、見る者の胸を熱くするメロドラマの名作をご紹介。

カサブランカ
出典:Amazon.com

この映画、こんなあなたにおすすめです!

  • ちょっと雰囲気のある大人の恋愛映画がお好みの方
  • ハードボイルド・テイストの映画が好きな方
  • 「シロップたっぷり」な甘たるい映画に辟易している方
  • 「運命」や「成り行き」について、ひとつの見識を求めている方

『カサブランカ』作品情報

監督 マイケル・カーティス
脚本 フィリップ・G・エプスタイン
・ ジュリアス・J・エプスタイン
・ハワード・コッチ
撮影 アーサー・エディソン
音楽 ・マックス・スタイナー
・テーマ曲:『As Time Goes By』
出演 ・リック・・・ハンフリー・ボガート
・イルザ・・・イングリッド・バーグマン
・ラズロ・・・ポール・ヘンリード
・ルノー署長・・・クロード・レインズ
・サム・・・ドーリー・ウィルソン
ジャンル メロドラマ

ストーリー

舞台は1940年、仏領モロッコ最大の都市カサブランカ。当時、リスボンを経由しアメリカへ行くために中継地となっていたため、亡命を希望するヨーロッパ人たちが集まっていた。

カサブランカで酒場を営むリック(ハンフリー・ボガート)の店に、対独レジスタンスのリーダー、ヴィクター・ラズロ(ポール・ヘンリード)夫妻が訪れる。彼らはアメリカへ渡るための通行許可証をリックが所持していることを知っていた。リックはラズロの妻イルザ(イングリッド・バーグマン)を見て驚く。彼女はかつてパリにいたときに本気で愛した女性だった。

自分を裏切ってラズロのもとに走ったイルザへの愛憎に苦悩するリック。そんな彼のもとにひとり訪れたイルザは、夫のアメリカ亡命の協力を要請する。そのとき彼女もまたリックを愛していることに気づく。イルザへの変わらぬ愛を確信したリックがラズロに対してとった行動とは……?

『カサブランカ』について思うこと

まめやか流筆のすさび

男なら一度は言いたい…君の瞳に乾杯!

『カサブランカ』を見て感じた印象を筆のすさびで表現

違いのわかる大人の「指南書」

最初に『カサブランカ』を見たのは、高校生の頃でした。その当時の部活の顧問の先生が大人の名作映画ということで強く推してくれたからです。少し古くさい映画という印象を持ちましたが、主人公リックを演じるハンフリー・ボガートが洒落ていて、「ふーん、大人ってこういうふるまいをするんだな」と感心したことを覚えています。「大人は女性を口説くとき、タイミングを見計らって『君の瞳に乾杯!』と言うのがマナーである」と勝手に思い込んでいました。

成人してから、一度女性に向かって「君の瞳に乾杯!」と口にしたことがあります。相手の女性は「なにそれ?」とア然として、その場の空気がピキーンと凍りつきました。そして僕は唇を噛んでこう思ったのです。世の中には『人を選ぶセリフ』というものがあるんだなぁ、と。それ以降、「君の瞳に乾杯」は口にしていないし、『カサブランカ』を見るたびに痛々しい思い出が甦ります。どうでもいい話ですが。

それにしても、大人の男が描かれるという意味では、『カサブランカ』から学べる点は多いです。粋、いなせ、スマートさ、手の届きそうなダンディズム、嫌味のないスノビズム。これらは、日本のメロドラマではなかなかお目にかかれないものです。違いのわかる「成熟した大人」になるための指南書として、僕は『カサブランカ』を推します。

豊かな解釈の余地を含ませたメロドラマ

『カサブランカ』はサスペンスあり、甘美なロマンスあり、友情あり、アクションあり、適度に湿っぽい感傷ありといった感じのメロドラマテーマ曲『As Time Goes By』(時の過ぎゆくままに)が、リックとイルザの物語を叙情豊かに隈取っています。娯楽としても申し分ありません。

『カサブランカ』を見終えたあと、独特の強い印象と余韻が残るのは、結末に豊かな解釈の余地を残しているからです。シンプルな結構のようでいて懐の深い物語でもあります。そういえば、1989年に公開されたラブコメディの傑作『恋人たちの予感』の中でも、『カサブランカ』をめぐっての印象深いシーンがあることを思い出しました。メグ・ライアンとビリー・クリスタルが『カサブランカ』のラストの解釈をめぐって議論しているのが、なんとも微笑ましい。

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けだし、時代を超えて鑑賞され続ける作品というのは、気持ちよく解釈の余地を含ませて成り立っているようです。一意的な解釈しか許さないメロドラマは、公開当初はインパクトがあっても、作品寿命はそれほど長くないのかもしれません。

「粋を尽くしたセリフ」が愉しい……

ストーリーもさることながら、リックのセリフには言葉では言い尽くせない味があります。「君の瞳に乾杯」だけではありません。他にも粋を尽くしたセリフを繰り出すのです。

リックの元愛人イヴォンヌから「昨夜はどこにいたの?」と訊かれて、「そんな昔のことは忘れたよ」とにべもなく返事し、「今夜の予定は?」と訊かれて、「そんな先のことはわからない」と冷徹に返事する。旅券密売人のウーガーテとの会話では、「俺のことを軽蔑するかい?」と問われ、「お前がもっと大物ならな…」と答えるところにもセンスがあります。ハードボイルドな受け答えがやたらと愉しい。

映画を見ながらメモしていているので、ここぞというところでセリフを使おうと思っているのですが、肝心なところで出てこないところが凡人の悲しさ……。哀歓織り交ぜたウィットに富むセリフだけ追いかけても十分楽しめる映画です。

『カサブランカ』のキャストについて

リック(ハンフリー・ボガート)

最初に『カサブランカ』を見たときに、「ずいぶんややこしそうな主人公だな」と思ったものです。その頃は皮肉のおかしみというのがわからなかったんですね。でも今では、リックの渋味と苦味がなんとなくわかるようになってきました。そして、ハンフリー・ボガートという稀有な役者の凄みも。

ボギーは、『マルタの鷹』のサム・スペード、『三つ数えろ』ではフィリップ・マーロウを演じていますが、いずれも甲乙つけがたい魅力にあふれたヒーローです。でもこの『カサブランカ』のリックが、この人が持つ「地」の色気にもっともふわさしいように感じました。色気があるから、「皮肉屋にして人情家」のリックというキャラクターも破綻なく成立しているのでしょう。

ハードで押し出しのよい男の役柄が多いボギー。『カサブランカ』のリックの立ち居振る舞いに、この人の育ちの良さがうかがえます。ボギーは金持ちのプレイボーイや凶悪犯、野暮で飲んだくれの中年男までいろんな役柄をこなしていますが、やっぱりこの人は、ソフト帽にトレンチコートを粋に着こなした姿が強烈なんでしょうね。

ボギーは、男の孤愁と気高さを、堂に入った寛闊な演技で魅了できる俳優です。男としてタフはタフだが、ハングリーな野性味やアーシーな力強さは感じられません。都会的に洗練されたタフさと裡に秘めた繊細さが、ボギーをボギーたらしめています。

イルザ(イングリッド・バーグマン)

『カサブランカ』出演の頃のイングリッド・バーグマンは、「間然するところなき美しさ」という形容にぴったりです。突き抜けきっています。メーターの針が振り切れて馬鹿になったような突き抜けようといいますか。

気品のあるたたずまい、慈しみのまなざし、知性薫る演技……ボギー同様、この人にも育ちの良さを感じられますが、ときおり見せる有無も言わせぬ強情さが不世出の女優たらしめる要素なのもしれません。凛々しい美しさと、奔放な強さとの均衡が危うくなって、ドキッとするような媚態が立ち上がります。それは女性としての貞節や慎み深さとは対極にある要素です。

今回、イングリッド・バーグマンのことを調べてみて、衝撃を受けました。
彼女は世紀のスキャンダルを起こしています。夫と子供を残して、強く慕うロベルト・ロッセリーニ監督のもとに走りました。世間の反応はどうだったのでしょう? これは推測ですが、今で言うところの「炎上」では生ぬるい、「十字砲火レベル」の非難を受けたのではないでしょうか。

しかし、彼女はそういう人生の暗部さえも一歩も引かず引き受けています。スキャンダルさえ芸の肥やしにしたといえば月並みな表現ですが、自分の抱える「業」の向き合って、ダークサイドに身を置いた経験を仕事に生かしたことは後年の活躍を見れば明らかでしょう。女優イングリッド・バーグマンの陰影豊かな━━ そして多分に官能性を孕んだ━━ 一頭地を抜くエレガンスはこのあたりから生まれているのかもしれません。

彼女の墓碑銘に刻まれている言葉は、「生の最後まで演技した」。ほとんど最後の最後まで女優としてひた走ったということなのでしょう。

まめやかコラム

「成り行きまかせ 風まかせ」……だけど自分のポジションをとる

男女が抗いがたい運命に翻弄されるのがメロドラマの鉄則です。
『カサブランカ』がまさにそう。運命に翻弄されるリックとイルザをロマンスを切々とうたいあげています。

戦乱の時代に生まれてくることも、平和の時代に生まれてくることも、人間に決めることはできません。酒場の主人リックもどこか「成り行きまかせ風まかせ」で、涼し気な諦観を漂わせています。

そして『カサブランカ』に欠かせないバイプレイヤー、ルノー署長(クロード・レインズ)の基本姿勢もまた、「成り行きまかせ風まかせ」です。でも最後の最後で、リックも、ルノー署長も、自らのポジションを明確にします。抜き差しならない運命に対し、自分のコントロール範囲内では自らの旗幟を鮮明にするのです。そこに諦観とおとなの潔さというものを感じます。

運命そのものを自分の思い通りにしようとすると、狂気に傾斜していくことは避けがたい━━ その諦観が、その時々で自分の信念に照らして最適解を導き出す力になるのではないでしょうか。

「成り行きまかせ風まかせ」のように見えて、自分のコントロールできる事柄には明確なポジションを取り、最適解を出していく━━ それは経験のない状況に遭遇する機会の多いこれからの時代に生きるためのひとつの生存戦略だと僕は考えています。

実はこの『カサブランカ』という映画自体も、「成り行きまかせ風まかせ」で制作されています。脚本が上がらないうちに撮影に入ったため、演者たちも撮影当日までストーリーを知らされなかったという。最後の結末も確定させず、2パターンつくったうえで、しっくりくる方を選んだというから驚きを禁じえません。

僕は思うんです。
これって、物の分かったおとなの放漫さであり、物の分かったおとなだから出来る現場至上主義であると。

そんな、おとなの映画づくりが結果的に、俳優たちから臨場感あふれる演技を引き出しました。「成り行きまかせ風まかせ」の、良い意味で放漫な制作手法が、『カサブランカ』という映画史に残る名作を生みだしたのはなかなかに興味深いと思いませんか?

ちゃお!!

それではまた