映画『オリエント急行殺人事件』レビュー※新作旧作を見比べての率直な感想

1974年版『オリエント急行殺人事件』

2017年版『オリエント急行殺人事件』

名探偵エルキュール・ポアロが活躍するアガサ・クリスティの傑作推理小説を、豪華オールスターキャストで映像化したミステリー映画の決定版。『オリエント急行殺人事件』には旧作(1974年版)と新作(2017年版)をが存在する。旧作は名にし負う娯楽映画としていまだに根強いファンから愛されている。一方、新作はケネス・ブラナーによって原作の格調高さを維持しながら、美しい映像で酔わせる。ミステリーのファンでなくても楽しめる『オリエント急行殺人事件』の旧作新作を見比べてのレビューと配信情報や作品情報をご紹介。

このページではこんな疑問を解決します!
  • 『オリエント急行殺人事件』の旧作・新作が視聴できる動画配信サービスは?
  • 『オリエント急行殺人事件』のあらすじは?
  • みどころは?
  • 新作と旧作、それぞれの感想はどう?
  • 新作と旧作、どちらが面白い?
  • 『オリエント急行殺人事件』の新作・旧作それぞれのキャストの魅力は?
目次

『オリエント急行殺人事件』の旧作・新作を見る方法

旧作(1974年公開)アルバート・フィニー主演『オリエント急行殺人事件』が視聴できる動画配信サービスは?

→ なし

現在、動画配信サービスの取り扱いがないため、Blu-ray、DVDを購入するか、TSUTAYA等のDVDレンタルしか視聴できません。

新作(2017年公開)ケネス・ブラナー主演『オリエント急行殺人事件』が視聴できる動画配信サービスは?

『オリエント急行殺人事件』が視聴できるサービス
  • Amazonプライム・ビデオ
  • Netflix
  • ディズニープラス
  • TELASA
  • You Tube
  • Apple TV
今すぐ視聴可

『オリエント急行殺人事件』の作品情報

『オリエント急行殺人事件』作品情報

『オリエント急行殺人事件』(新旧共通)あらすじ

エルキュール・ポワロがイスタンブールからカレー行きのオリエント急行一等寝台に乗り込むところから物語は始まる。

乗客はポアロを13人。
実業家、秘書、公爵夫人、伯爵夫人、軍人、宣教師、謎の中年女性など、それぞれ身分も国籍も違う面々。

ゆったり旅を楽しんでいたポアロだったが、列車が雪のために立ち往生した翌朝、乗客の一人ラチェットが刺殺体で発見されたため、事件の解決を依頼されてしまう。

ポアロが捜査に乗り出してすぐ、被害者のラチェットの犯罪歴を突き止める。数年前に起こったアームストロング家の令嬢・デイジー誘拐殺害事件の犯人だったのだ。

「犯人は乗客の中にいる」━━ そう目星をつけて一等寝台に乗っていた全員を一人ずつ尋問していくうちにやがてポワロは気づく。乗客全員がラチェットを殺す動機があることを……。はたして犯人は?

1974年版作品データ

スクロールできます
監督シドニー・ルメット
脚本ポール・デーン
撮影ハリス・ザンバーラウコス
音楽ジェフリー・アンスワース
出演アルバート・フィニー、ローレン・バコール、イングリッド・バーグマン、ショーン・コネリー、アンソニー・パーキンス、ヴァネッサ・レッドグレイヴ、リチャード・ウィドマーク
上映時間128分

2017年版作品データ

スクロールできます
監督ケネス・ブラナー
脚本マイケル・グリーン
撮影ハリス・ザンバーラウコス
音楽パトリック・ドイル
出演ケネス・ブラナー、ミシェル・ファイファー、ペネロペ・クルス、レスリー・オドム・Jr、ジョシュ・ギャッド、デイジー・リドリー、ジョニー・デップ、ウィレム・デフォー、ジュディ・デンチ、オリヴィア・コールマン
上映時間114分

映画『オリエント急行殺人事件』感想

映画『オリエント急行殺人事件』感想

傑作揃いのアガサ・クリスティのミステリーのなかでも、『オリエント急行殺人事件』ほど映像化に馴染みのいい作品もないだろう。なにしろ物語の舞台がすでに映像向きだ。

1930年代のヨーロッパ。
トルコのイスタンブールから、フランスのカレーを結ぶオリエント急行。
とびっきりゴージャスで、とびっきりうろんで一癖も二癖もありそうな乗客たち。
そして灰色の脳細胞をもつベルギー人の名探偵。
ChatGPT時代に観ても、まったく古臭くない。
むしろ、ミステリーというエンターテイメントの普遍的な魅力を立派に証拠立てているようだ。

異国情緒たっぷりな映像美にも息を呑んでしまう。
原作を知らなければ、「謎解き」に重点をおいた魅惑のプロットに固唾を呑んでしまう。
原作を知っていても、『オリエント急行殺人事件』のラストには目を見張るだろう。

名探偵エルキュール・ポアロは、さいごには事件の衝撃的な真相を暴く。
だが、犯人を名指しして、めでたしめでたしといかないラストであるがゆえに、この物語に品位と奥行きを与えている。
2つの解決策を探偵に提示させた心憎さ、そして幕引きの清粋さ━━ そこにアガサ・クリスティの卓越性を感じさせる。

俳優も映像もプロットも豪華。殺人事件の話なのに「佳話だなぁ…」と泣けてきた。

1974年版のシシドニー・ルメットも2017年版のケネス・ブラナーもそれぞれの作家的野心と敬意をもって、この物語の掉尾を映像的に荘厳し、不朽の古典に仕立て上げているように思う。
文句のつけようもない古典だ。

1974年シドニー・ルメット監督・アルバート・フィニー主演『オリエント急行殺人事件』のレビュー

第47回アカデミー賞には助演女優賞、男優賞、脚色賞、撮影賞、作曲賞、衣装デザイン賞に6部門にノミネート。
そのうち、イングリッド・バーグマンが助演女優賞を受賞。
ケチのつけようのないオールスターキャストにため息が漏れてしまう。

たとえば、ハンフリー・ボガートの妻であるローレン・バコールと、『カサブランカ』でボギーと共演したイングリッド・バーグマンの2ショット。ボギーファンとしては嬉しくて身震いしてしまった。

『サイコ』のアンソニー・パーキンス、『ニュールンベルグ裁判』『ワーロック』のリチャード・ウィドマークも充実した演技で脇を固め、この娯楽大作に有無を言わせぬ風格を添えている。

監督はかっちり社会派を得意とするシドニー・ルメット。
『十二人の怒れる男』を手掛けたこの人の作品なら、留保無く物語に没入できる。

サスペンスとしての緊迫度を犠牲にしても、ゴージャスな映像美と上質な推理劇に重きを置いた、ルメット監督の判断は適切だったようだ。

『オリエント急行殺人事件』が公開された1974年、『ゴッドファーザーPARTⅡ』とアカデミー作品賞を競り合う。
惜しくもオスカーは逃したものの興行的には大ヒット。『ゴッドファーザーPARTⅡ』は素晴らしい映画だけど、家族みんなで楽しめる娯楽作品というにはいささかハード過ぎるから。

以後、『ナイル殺人事件』『クリスタル殺人事件』『地中海殺人事件』とクリスティ作品の映画化が続いてゆく。
いずれも貫禄のある作品だが、『オリエント急行殺人事件』のインパクトの強さにはかなわない。

2017年ケネス・ブラナー監督・主演『オリエント急行殺人事件』のレビュー

新作は全編通して、スタイリッシュで美麗な映像だが、クリスティの作品の格調高さを損ねないように怠りなく配慮されている。シェイクスピア劇でならしたケネス・ブラナーの矜持と気概が脈打っていて、見ごたえ十分だ。

配役も見事というしかない。
1974年版に比べると、オールスターキャストという印象はやや薄まるけれど、しかるべき位置にしかるべきキャストが立ち、役者たちの美点を遺漏なく引き出している。

古風なミステリーに有無を言わせぬ艶やかさとまとまりが出ているのも、ケネス・ブラナーの力量に負うところが大きい。少なくともこの人は『オリエント急行殺人事件』のブランド力に甘えず、自らの手で再構築に成功させたように思う。

1974年版との大きな違いは、緊迫感あるサスペンスを重視して、映画としての説得力を高めている点だろう。
スペクタキュラーな語り口で、中だるみさせることなく2時間引っ張ってゆく。

重厚すぎず、明朗すぎず、ほどよいバランス感覚が秀逸。
隅々にまで目を配り、ツボを心得たケネス・ブラナーの映像作りは、クリスティ作品と肌が合うのだろう。このあと、『ナイル殺人事件』『名探偵ポアロ:ベネチアの亡霊』(2023年公開予定)とシリーズ化される。
世界中がケネス・ブラナーの作風を認めたと言っても過言ではない。

旧作と新作、どちらが面白いか?

甲乙つけがたいというのが率直な感想だ。
ただ、このあまりにも有名なミステリーの原作を知らないあなたなら、2017年版の『オリエント急行殺人事件』が楽しめるだろう。

もし、あなたがこの物語のあらましをご存知で、旧作も新作も別け隔てなく楽しめる映画ファンなら、1974年版を強くおすすめする。

どちらも結末は同じである。
だが、余韻は違う。
2017年版は、ままならぬ世の複雑さや矛盾を前に、主人公ポワロの葛藤が色濃く反映したラストだ。
いっぽう、1974年版のポワロの葛藤はもうひとつ心に届かない。しかるになぜかあたたかくて親密な余韻を残す。

描きすぎないことが、かえって映画に「彫り」の深さも与えることもあるのだなぁ…と学ばせてもらった。
そう、おそらく、余計な説明を削ぎ落とし、観客の想像力に働きかけているのだ。

そんなわけで、個人的には、1974年版『オリエント急行殺人事件』を「多」としたい。
作品の豪華さ、豪気さ、登場人物たちの抒情、哀感、そしてやさしさに触れて、自然に涙がこみあげてきたという理由も大きい。

旧作(1974年版)『オリエント急行殺人事件』キャストの感想

『オリエント急行殺人事件』(1974年)キャストについて

アルバート・フィニー(エルキュール・ポアロ)

僕の中では、ポワロ役といえばこの人だ。
オールスターキャストをとりまとめるポワロ役に、この役者の起用にこだわったルメット監督に同意できる。

灰色の脳細胞をもっているけれど、エキセントリックさが漏れ出てしまう。
もともとチャラクラでデタラメな人を、騎士道精神とノブレス・オブリージュで固めて矯正させたような、それでいてしっかりひとつの人格を持ちこたえているような不思議な御仁だ。

キャラクターの造形に不自然さはない。
理屈をこえた説得力がある。
並外れた推理力や洞察力の持ち主であることはわかるけれども、ほとんど神通力か何かで乗客の正体を殺害動機を決めつけている様子は痛快だ。この役者にとって「はまり役」だったように思う。

ところで、公開当時存命だったアガサ・クリスティも、映画の出来にすこぶるご満悦だったという。
ただ一点納得しなかったのは、ポワロ役の「ひげ」だったそうだ。
「ちょっと短い」と。

そうかなぁ…あれ以上長いと、アルバート・フィニーにはそぐわないような気がするけどなぁ……。

ローレン・バコール(ハバード夫人)

『キー・ラーゴ』『三つ数えろ』の頃の印象が強いけど、今作では大女優の貫禄を見せつけて圧倒的な存在感を示している。
あの男を射すくめるような上目遣いも健在だ。

美貌をもてはやされてきた女性の多くが見せる、人生に飽いた雰囲気もなくはないが、不思議と枯れた印象はない。
洗練された女性にしか醸し出せない「エレガントな野性味」もある。
艶のある荒廃もすばらしい。

イングリッド・バーグマン(グレタ・オルソン)

当初彼女に与えられた役は、ナタリア・ドラゴミロフ公爵夫人だった。
しかし、本人の強い希望で、この風変わりな宣教師役を演じた。
生涯、女優としてのこだわりを捨てなかった人だと思う。

やわらかで繊細な演技だけれど、相手役の「太刀筋」を見極めて、グレタ・オルソンとして表現すべき最適解を出しているかのようだ。このキャラクターの「こじらせた感」には何とも言えない妙味がある。素晴らしい。

この名女優が、演技を楽しみきっているのが観客に伝わってくるのだ。

ヴァネッサ・レッドグレイヴ(メアリ・デブナム)

美しく聡明、「女傑」という言葉がぴったりの教師をしっとり抑制して演技でこなしている。
実は、登場人物のなかでもっとも印象に残っているのがこの人だ。

アルバート・フィニーの妥協のない尋問にも、眉一つ動かさずに、微笑さえ浮かべて供述している。
思慮が深く、覚悟を決めた女性は、やたらと核心をついてくる風変わりな名探偵に追求されても動揺しない、揺るぎはしない。

映画のラストで見せる、ヴァネッサ・レッドグレイヴはひときわ輝いている。
この女優がいなければ、『オリエント急行殺人事件』は今とは違った評価を受けていたかもしれないと思うほど。

ショーン・コネリー(アーバスノット大佐)

役者として脂の乗りきった時期のショーン・コネリー。
腰のすわった演技で、男としての貫目にも不足はない。

どこまでも紳士的にエゴを表出しながら、アルバート・フィニーとの演技合戦を繰り広げるさまはこの映画のみどころのひとつかもしれない。自分の演技には隅々にまで目が行き届いているように感じさせる。

「エルキュール・ポアロ対ジェームス・ボンド」という印象を微塵も感じさせなかったのは、この人の芸域の広さゆえである。芸達者な俳優だ。

新作(2017年版)『オリエント急行殺人事件』キャストの感想

『オリエント急行殺人事件』(2017年)キャストについて

ケネス・ブラナー(エルキュール・ポアロ)

実に端正なポアロだ。
端正にすぎるきらいがある、と言うと怒られるかもしれないが、アルバート・フィニーをポアロの基準点に据えると、そう感じないわけにはいかない。

いまひとつ、ポアロの「人間的混沌」が届かないのが不満だったが、今回、この2017年版を見て確信した。
「ああ、この人は、あえてポアロのややこしさを捨象して、新しいポアロを再構築したんだ」と。

となれば、アルバート・フィニーやピーター・ユスティノフ(『ナイル殺人事件』でポアロ役を妙演)と比較するのはさして意味がないのかもしれない。

ケネス・ブラナーのポアロは、スマートにして怜悧、目から鼻へ抜ける機転をきかせて、曲者の登場人物たちを追い詰める姿は、ヒーローとしても様子がいい。ヒーローである前に人間エルキュール・ポアロとしての葛藤や苦悩を丹念に描いたことも評価に値する。

そんなケネス・ブラナーのポアロを基準点にすると、アルバート・フィニーのポアロは人間を深く描ききれていない、という言い方もできなくはない。あるいは、ケネス・ブラナー版こそ、アガサ・クリスティが思い描くポアロに近いかもしれない。

一つ言えるのは、さしもの ”点の辛い” クリスティも、ケネス・ブラナー演じるポアロのひげの長さにはご満悦だろうということだ。

ミシェル・ファイファー(ハバード夫人)

年齢を重ねても美しさが衰えない女優のひとりだ。
ふるいつきたくなるようなと言ってもいいくらい。
攻めすぎず、守りすぎもしない、緩急自在の演技にプロフェッショナリズムを感じさせる。
ローレン・バコール以上の狂気が含んだハバード夫人は見応え十分。
もっと活躍が見たい女優である。

ペネロペ・クルス(宣教師ピラール・エストラバドス)

1974年版でイングリッド・バーグマンの演じた宣教師役に相当する。
ペネロペ・クルスの方は、バーグマンのような人間的弱さを見せないし、エキセントリックな側面も希薄だ。
聡明でもの静かだが、どんな隠し玉を持っているかわからない。
この人は華美な印象があるけれど、今作では見事なくらいの地味な宣教師を好演している。
たしかな演技力をもつ人だからできる芸だろう。

デイジー・リドリー(メアリ・デブナム)

スター・ウォーズ続三部作では、メインキャラクターのレイを演じた人だ。
こちらのデブナムも鼻っ柱が強そうだが、キュートさを残している。
理の勝った女性だが、惚れた男性にはしなだれかかるという風情を感じさせるのが、ヴァネッサ・レッドグレイヴとの大きな違いと言えるだろう。個人的にはこの人が演じるファム・ファタールを見てみたい気がする。

ラチェット(ジョニー・デップ)

いまだに『シザーハンズ』(1990年)のイメージが強いけど、今作では冷酷非道なラチェットを充実した演技でこなしている。貫禄もある。凄みもある。様子もいい。だが、ラチェットに必要とされる残忍さがいまひとつ心に届かないのは、なぜだろう。

卑劣な男なのに、ちょっとカッコ良すぎるからかもしれない。
1974版のラチェット役を演じたリチャード・ウィドマークはその存在感で頗る付きの悪漢であることを表現していた。
卑劣漢としての味付けをもうすこししつっこくしても良かったのかなと思う。

さいごに

『オリエント急行殺人事件』(新旧共通)は以下にあてはまる方におすすめです。

  • 古風で上質なミステリがお好きな方
  • 迫力ある特殊効果よりも、人間ドラマを楽しみたい方
  • 異国情緒漂う、古き良きヨーロッパの風景を堪能したい方

旧作(1974年版)はこんな人におすすめです。

  • 映画史に残る映画スターたちの演技合戦を楽しみたい方
  • 教養として格調高い名作映画に触れたい方
  • 新作映画には求めがたい上質な余韻に浸りたい方

新作(2017年版)はこんな人におすすめです。

  • 「オリエント急行殺人事件」の結末を知らない方
  • 現代的でスタイリッシュな映像美を求める方
  • オーソドックスな謎解きが好きな方

この機会に、『オリエント急行殺人事件』を楽しんでみてはいかがでしょう。


よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次