『スパルタカス』(1960年)
主演:カーク・ダグラス/ローレンス・オリビエ/ピーター・ユスティノフ
アカデミー賞4部門(助演男優賞・撮影賞・衣装デザイン賞・美術賞)受賞。共和政ローマに対して、自由と尊厳を求めて立ち上がった剣闘士スパルタカスの反乱を描いた歴史スペクタクル長編。当時31歳のスタンリー・キューブリック監督の並外れたセンスと反骨精神を感じさせる『スパルタカス』の見どころ、感想、レビュー。
- 『スパルタカス』のあらすじは?
- 感想・レビューはどう?
- 『スパルタカス』のみどころは?
- 登場人物・キャストの魅力は?
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『スパルタカス』作品情報
監督 | スタンリー・キューブリック |
脚本 | ダルトン・トランボ |
制作総指揮 | カーク・ダグラス |
撮影 | ラッセル・メティ |
音楽 | アレックス・ノース |
出演 | ・スパルタカス・・・カーク・ダグラス ・マルクス・リキニウス・クラサス・・・ローレンス・オリビエ ・奴隷商人バタイアタス・・・ピーター・ユスティノフ ・グラックス・・・チャールズ・ロートン ・バリニア・・・ジーン・シモンズ ・アントニウス・・・トニー・カーティス ・ジュリアス・シーザー・・・ジョン・ギャヴィン |
上映時間 | 196分 |
ジャンル | アクション/歴史スペクタクル |
あらすじ
舞台は紀元前1世紀のローマ。
子供の頃、リビア鉱山に売られて奴隷として働いていたスパルタカス(カーク・ダグラス)は、奴隷商人バタイアタス(ピーター・ユスティノフ)に頑健な肉体とただならぬ闘志を買われて剣闘士養成所に入所する。
戦士としての厳しい訓練、仲間同士の命をかけた決闘━━ そんな殺伐とした剣闘士養成所の生活のなかでも、スパルタカスは女奴隷のバリニア(ジーン・シモンズ)と心を通わせあい、人間性を取り戻していた。
ある日、ローマのクラサス将軍(ローレンス・オリビエ)一行が、剣闘を観るために養成所を訪れる。
剣闘士として選ばれたのがスパルタカスを含めた4人の戦士。
貴族たちにとっては物見遊山だが、剣闘士たちにとってはいずれかが死ぬまでの真剣勝負である。
スパルタカスは槍の名手・ドラバと激しい闘いを繰り広げるが、健闘むなしくドラバに追い詰められてしまう。
とどめを刺すかに見えたドラバだが、スパルタカスを見逃し、自分たちの命を賭した剣闘を気晴らしの娯楽として見物していたクラサスたちに襲いかかる。
しかしドラバは捕らえられ殺されてしまう。
その事件がきっかけとなって、スパルタカスの怒りが爆発。
剣闘士たちは暴動を起こし養成所から脱走する。
スパルタカスを筆頭に剣闘士たちは、奴隷解放のためにローマ元老院相手に反乱を起こすのだった……
『スパルタカス』の見どころ・感想・レビュー
史実と違うところに妙味あり
古代ローマの盛衰は史実としても興味深い。
歴史スペクタクル映画のテーマとして好適である。
なんといってもローマの歴史には、実に個性豊かな人々が登場するからだ。
この映画の主人公スパルタカスは実在の人物だが、やはりそこは映画だから、今日的な観点から「人道的かつ善良なヒーロー」として脚色されているのだろう。
ストーリーの大枠は史実どおり。
だが、細かい部分で史実と異なるところがおもしろい。
たとえば、ジュリアス・シーザー。
スパルタカスの乱が起こったとき、この人類史に燦然と輝く天才的リーダーは、まだ元老院には入っておらず、くすぶっていたはずだけれども、映画の中では風采立派な元老院議員として登場する。
シーザーは典型的な「英雄色を好む」タイプであり、清廉と放恣がほどよく混じり合った人物だが、この映画に登場するジュリアス・シーザーはいささか健全にすぎる好青年という風情だ。
うーん、なんだかモヤっとする。
求む!清濁併せ呑んだカラフルなシーザーを!
ほかにも、クラサスにライバルであるグラックス。
この人が、あのグラックス兄弟のいずれかだとしたら、スパルタカスの時代にはとうに家名断絶しているはずだからこれもおかしい。
でもまあ、そんな細かいところに目くじらを立てなくてもいいのかもしれない。
シーザーやグラッカスが出ないよりも出たほうが、━━ 多少、そらぞらしさという瑕瑾はあるにせよ━━ 物語に色艶が生まれるのは確かである。
キューブリック監督やカーク・ダグラスが、物語としての妙味や滋味を引き出すために、意図的に史実から外れた脚色をしたとしたら、その狙いは見事に奏功しているようだ。
なにより、『スパルタカス』は曲者天才監督と曲者名優たちによる作品である。
お行儀のよい歴史スペクタクル作品におさまるわけがない。
スタンリー・キューブリックのセンスが光る
スタンリー・キューブリックは、『博士の異常な愛情』『2001年宇宙の旅』『時計じかけのオレンジ』『シャイニング』を手がけた天才肌の監督である。
とはいえ、『スパルタカス』を監督したときはまだ31歳。
後年の傑作映画に比べると、キューブリック色はさして濃くはない。
この人のブラックユーモアや狂気をはらんだタッチは、『スパルタカス』の中にもっと濃厚に反映されてもいいはず。
きっとキューブリックには自由にならなかったことが多かったのかもしれない。
総製作費1200万ドルもかけたのなら、もっとこの人に裁量を与えてもよかっただろうに。
今ある『スパルタカス』とは、ずいぶん趣の異にする作品になっていたかもしれない。
もっとスリルと狂気と神秘に満ちた『スパルタカス』に━━ 。
それでも大規模な会戦シーンには、キューブリックならではの「鋭利なナイフの冷たさ」の如きセンスがいかんなく発揮されていて、「これやこれ!これやがな!」と快哉を叫んでしまった。
肉体と肉体のぶつかりあいを、冷徹で突き放したパースペクティブから捉えようとしている。
凄烈な迫力に固唾を呑む。
会戦後の地獄絵のようなシーンも度肝を抜かれた。
古今東西、戦争によって露わになる人間の業や悲哀は、2千年前のローマも現代も何も変わらないことを伝えている。
ラストシーンも見事だと思う。
万事めでたしめでたしにせずに、深い余韻を残すような幕の引き方だ。
けっして後味は悪くないし、『スパルタカス』に作品的な懐の深さを与えている。
何より、曲者の名優たちにのびのびとした演技を引き出した、キューブリックの演出手腕は見事というほかない。
若い監督にとっては、細かい点において妥協を余儀なくされた作品でもあるだろうけど、その反骨精神が後年の傑作を生んだとしたら、以て瞑すべし、である。
自由と解放を求めるスパルタカスとは、あるいはスタンリー・キューブリックその人なのかもしれない。
『スパルタカス』のキャストについて
スパルタカス(カーク・ダグラス)
主人公スパルタカスを演じるこの人は、言わずとしれた大スター。
脂の乗りきった頃の作品だ。
製作総指揮に携わっており、映画人としての意気も高い。
それにしてもまあこの人の肉体の軋み具合はどうだろう!
ガッチガチのムッキムキである。
カーク・ダグラスの剣闘士姿は「偉丈夫」という言葉がふさわしい。
おもわず「プロレスラーやがな!」とついひとりごちてしまった。
この映画の求心力はやはり圧倒的なカーク・ダグラスの存在感だと感じる。
映画を観る前は、「3時間だから、途中で中だるみしそうだな……」と覚悟はしていたのだけれど、冒頭からグイグイ引き込む力がすごいのなんの。
まるでカーク・ダグラスに胸ぐらつかまれているような力感みなぎる強制力だ。
ちょっとやそっとのことでは離してくれそうにない。
ある程度ストーリーが進んだら、観客はもはや途中でやめることができないほど、この映画に魅了されているという寸法である。
自分たち奴隷をローマから解放するために闘魂を燃やし続けるスパルタカスだけれど、バリニア(ジーン・シモンズ)とのロマンスにおいては、デリケートさも垣間見せる。
欲を言えば、大胆と繊細の「あわい」を、もう少しきめ細かく表現してほしいところだ。
でもそんな精緻な演技はこの人には野暮なのかもしれない。
なにしろ、ガッチガチのムッキムキの人だから。
クラサス(ローレンス・オリビエ)
シェイクスピア芝居の世界的名優だけあって、古代ローマの将軍を演じさせても風格は必要にして十分。
この人の酷薄さには有無を言わせない説得力がある。
今日的な人道的観点から物言いをしたり、倫理的観点から疑義を呈したりしても、この人にはほとんど意味をなさない。
ローマ貴族の矜持を保つためなら、奴隷に塗炭の苦しみをなめさせても何の痛痒も感じないだろう。
冷酷かつ無慈悲に意思決定してしまう、”明晰かつ小粋な残酷さ” は、この名優にふさわしい。
物語の終盤、クラサスとスパルタカスが正面から向き合うシーンは見ものだ。
どこからそんな声を発せるのかと思うほど凄まじい咆哮に、こちらまで肝をつぶしてしまった。
後年出演する『マラソンマン』(1976年)では、ローレンス・オリビエは元ナチスの医師を演じているらしい。
「らしい」と言うのは、この映画だけは一生観ないと決めているからだ。
なぜなら『マラソンマン』には映画史上、最も痛々しいと言われる拷問シーンがあるから。
(拷問の種類は「歯」関連だ)
そして、その拷問を決行する狂気の医師を演じているのがローレンス・オリビエその人である。
想像するだけで身震いを禁じえない。
観てみたい、、、いや、だめだ、観たくない。。。
バタイアタス(ピーター・ユスティノフ)
ピーター・ユスティノフ━━ この名優もまたローマ人にふさわしい。
『クォ・ヴァディス』(1951年)で、ピーター・ユスティノフが演じたのはローマ帝国第5代皇帝ネロだった。
今作『スパルタカス』の中では、奴隷商人に「降格」させられているが、こちらの方がキャラクターが生き生きしており、この人を持ち味を十全に生かしきれているように思う。
なにしろ、この映画の中では、もっともカラフルな起伏に富んだ人物である。
アクとえぐみにも不足はない。
バタイアタスは商人だけあって、小心で欲深で奸智にたけた人間だが、なぜか憎めない。
食えない男だが、許してしまう。
明らかに不謹慎な人物だとわかっていても、つい招き入れてしまうようなタイプといえよう。
クラサスのように心底から冷酷になりきれず、かといって、善良な人間になるのも癪だから、グレーゾーンをあっちに行ったりこっちに来たりして揺らいでいる。
そのハンパさを、安定感のある演技でこなしているところに、この役者の傑出ぶりがうかがえるのだ。
撮影当時、俳優としても脂が乗りきっている時期だが、役柄によっては観ているうちに「胃がもたれる」かもしれない。
この人のもつ一癖ある個性が、演じる役によって、うまく映える場合とまるで映えない場合があるように思う。
少なくとも、バタイアタスという役柄は、ピーター・ユスティノフの「一癖」をこのうえなく輝かせるのに必要にして十分だった。
後年、『ナイル殺人事件』(1978年)で名探偵エルキュール・ポアロを演じたこの人は、見事に円熟したふくらみを見せてくれた。
闊達にして達者、格調高い演技で観る者の胸を打たずにはおかない。
デリシャスな演技で、観客に腹持ちのよい満腹感を与えること必定の役者である。
さいごに
『スパルタカス』は以下にあてはまる方におすすめです。
- 歴史スペクタクル巨編がお好きな方
- 古代ローマ帝国に興味関心がある方
- 特殊撮影を使用しない、生の肉体同士のぶつりかりあいに興味がある方
ぜひこの機会に、『スパルタカス』をご覧になってください。
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