映画『黄昏』(1981)動画の感想※歳を重ねる妙味、心にしみいるほろ苦さ

『黄昏』(1981)

『黄昏』(1981)

主演:キャサリン・ヘップバーン/ヘンリー・フォンダ

第54回(1982年)アカデミー賞【主演男優賞】【主演女優賞】【脚色賞】獲得。老夫婦と娘、そして娘の再婚相手の連れ子とのひと夏の出来事を綴ったヒューマンドラマ。キャサリン・ヘップバーンの演技はどこまでもみずみずしく、ヘンリー・フォンダ、ジェーン・フォンダ父娘の実像を投影した物語は見る者の心を無防備にする。そんな『黄昏』のみどころをご紹介。

この映画、こんなあなたにおすすめです!
  • 心あたたまる「家族の物語」を見て感動したい方
  • 人生の黄昏どきを迎えている方
  • 父娘の関係に悩んでいる方
  • 老いに抗うことに疲れている方
  • 人生の危難を楽しげに乗り切る知恵を養いたい方

目次

『黄昏』の感想

『黄昏』の5段階レビュー
『黄昏』の評価

ヘンリーとジェーン、本物父娘の確執を乗り越えるために作られたかのような映画

洋邦問わず、黄昏を迎えた人々のドラマが個人的には好きです。
ドライビング Miss デイジー』も楽しめたし、邦画なら小津安二郎作品も見ごたえがありました。今回紹介する『黄昏』も、 なんともいえない「ほろ苦さ」を満喫できる、みごとな黄昏ムービーです。父と娘の確執と葛藤、そして和解が織り込まれていて、穏やかだけれど心にしみいる感動を味わえます。

この映画の興味深い点は、娘役のジェーン・フォンダが映画化権を買い取っていること。まるで父ヘンリーとの確執を乗り越えるためにこの映画を作ったかのようです。実母フランシスが自殺したのは父が原因であると信じていたジェーンは、プライベートでも長らくヘンリーとは不仲だったと言われています。

しかし、娘は父との和解を望んだのです。
『黄昏』の撮影が進むなかで、ヘンリーとジェーンのあいだに横たわっていた深い溝は埋めることはできたのでしょうか。確実に言えるのは、この作品でヘンリー・フォンダは初のアカデミー主演男優賞を獲得。病気で欠席した父にかわって、娘ジェーンがオスカー像を受け取り、「心から父を誇りに思う」とコメントを残したことです。

それから5ヶ月後、ヘンリー・フォンダはにこの世を去っています。さいごのさいごに娘から父への、最高の親孝行です。オスカー獲得以上に「心から父を誇りに思う」と言葉は、父ヘンリーを幸福にしたのではないでしょうか。

歳を重ねるごとに深まる生の妙味

美しい自然の描写も『黄昏』の魅力のひとつです。
とりわけ、映画のオープニングで映し出される、ニューイングランドの湖の光景には、思わず息を呑んでしまいました。茜色に染まった湖面のさざなみが砕け散ったガラスのようにきらめいていて、黄昏の哀しみをたたえた美しさを見事に表現しています。

デイブ・グルーシンのしっとりとした音楽も『黄昏』にふさわしい。豊かな情趣をかきたてて静かな調和へと収れんするメロディは、どこまでも流麗で気品を崩しません。

しかしなんといっても、一番の見どころは、ノーマンとエセルの夫婦のやりとりでしょう。老いに勝てない様子のノーマンに気を揉みながらも、ユーモアと快活さを絶やすことなく、黄昏の日々を楽しもうとするエセルの姿は凛々しい輝きを放っています。

こういう夫婦を見ると、老いを受け入れる生き方をポジティブに捉えることができます。歳を重ねるごとに深まる生の妙味は、いよいよ ”美味しく” 感じられるのかもしれません。

この夫婦を見ているうちに、はたと気づかされました。
抗うことなく穏やかに「黄昏」を愉しむ姿勢が、従容として死を受け入れる諦観をかたちづくるのではないかと。

『黄昏』のキャストについて

エセル(キャサリン・ヘプバーン)

明るく、気丈で、エネルギッシュな演技。
ヘンリー・フォンダとの打てば響くような夫婦の掛け合いは、見飽きることがありません。年齢を重ねてもキャサリン・ヘプバーンの演技には迷いがなく、ひとつひとつの所作、言動に確信が満ちあふれています。

情熱を抑制しつつも、さらけ出すところは一気に出しきってしまう。どこまでも淑女だけれど、どこまでも奔放にもになれる。いったいどこまでが演技でどこまでが「地」なのか、その境界線を不分明にしていることが、この人の芸風であり、プロフェッショナリズムの発露なのです。

もはや、セリフを覚えるという段階を通り越して、そのときそのときで湧き上がった適切な言葉が自然に流露しているかのよう。この人は完全に、エセルの人生を生ききっているようです。

『黄昏』をご覧いただければお気づきになると思いますが、エセルの頭は、終始ふるふると小刻みに横に揺れています。高齢の方によく見られる不随意運動でしょうか。あるいはこれも、キャサリン・ヘップバーンの役作りなのかもしれません。この人なら、それくらいためらいなくやってのけそうな気がします。本人が「こうやる」と決めたら、一切の妥協を排してやりきるタイプですね。

『黄昏』を含めてアカデミー主演女優賞を4回受賞したキャサリン・ヘップバーンは、自身の授賞式に一度として出席していません。たったの一度も!そんな姿勢からも並大抵ではない女優の気概がうかがえます。

それにつけても、キャサリン・ヘップバーン━━ 常人にはうかがい知ることのできない、ややこしい事情を抱えていそうな人であることは間違いありません。そして、映画史に燦然と輝くレジェンドであり、多くの役者に仰ぎ見られる存在であることも間違いありません。

ノーマン(ヘンリー・フォンダ)

狷介固陋さがユニークな名優は、撮影当時76歳。
キャサリン・ヘップバーンとの呼吸もぴったりです。チェルシーへの皮肉な言葉のなかにも、素直に愛情を伝えきれないぎこちなさやもどかしさを感じさせます。父が娘を想う気持ちは隠しても隠しきれません。

ノーマンが13歳のビリーと打ち解けていくの様子も微笑ましい。頑固さを崩すことなく少年をはげますような演技に円熟の域に達した役者の矜持を感じさせます。人の心をばらけさせる頑固さというのがあるんですね。ノーマンを見ていると、心のささくれがきれいに取り除かれて、やさしい心持ちになるのです。

それにしても、ヘンリー・フォンダの芸域の広さには感服しました。『十二人の怒れる男』(1957年)で演じた、善良で凛とした陪審員のイメージはきれいに除去されています。あるいは『黄昏』のノーマンが、ヘンリー・フォンダの実像に近いのかな、と勝手に思いました。

チェルシー(ジェーン・フォンダ)

はちきれんばかりの健康美をこれ見よがしにアピールしても、まったく嫌味にならないのがこの人の持ち味です。『黄昏』の中では、パーフェクトな肉体美を気前よく披露しています。

健全な肉体は、健全な演技を可能にするようです。父と娘の相克を通して、父・ヘンリーの役者としての持ち味をうまく引き出すことに成功しています。こういう懐の深さもジェーンの健全な強みです。

では、もうひとりの名優、キャサリン・ヘップバーンに、ジェーンはどういう態度を示したのでしょうか。キャサリン同様、ジェーンも自身の才能と美貌を自覚し、それに見合うだけの健全な自負心と承認欲求を持つ人。にもかかわらず、『黄昏』の中では慎ましく一歩身を引いて、大先輩キャサリンに花を持たせたようです。
けだし、「名女優は名女優を知る」なのでしょう。

『黄昏』作品情報

監督マーク・ライデル
脚本アーネスト・トンプソン
撮影ビリー・ウィリアムズ
音楽デイブ・グルーシン
出演・エセル・・・キャサリン・ヘプバーン
・ノーマン・・・ヘンリー・フォンダ
・チェルシー・・・ジェーン・フォンダ
・ビリー・・・ダグ・マッケオン
・ビル・・・ダブニー・コールマン
・チャーリー・・・ウィリアム・ラントゥ
上映時間109分
ジャンルヒューマンドラマ

あらすじ

舞台はニューイングランドの静かで美しい湖畔にある別荘。元大学教授のノーマン(ヘンリー・フォンダ)と妻エセル(キャサリン・ヘプバーン)は避暑のため毎年この場所を訪れている。80歳を迎えようとしているノーマンは頑固で皮肉屋。寄る年波には勝てない夫に妻エセルは気苦労がたえない様子。

この別荘に、一度結婚に失敗した娘のチェルシー(ジェーン・フォンダ)と再婚相手であるビル、その連れ子であるビリーがやって来る。ノーマンの誕生日を祝うチェルシーだが、内心は複雑。以前から父との関係はうまくいかず、いつまでも子供扱いするノーマンの接し方に娘の心はおだやかではない。

チェルシーはビルとヨーロッパ旅行に行くあいだ、ビリーを両親に預ける。13歳のビリーとの交流を通して、こわばった心がほどけてゆくノーマン。そんなふたりをあたたかく見守るエセル。ある日、ノーマンとビリーは冒険心にかられて、座礁リスクの高い危険な浅瀬に釣りに出かけるが、案の定ふたりは窮地に陥ってしまう……

人生の危難を楽しげに乗り切る知恵~『黄昏』コラム

『黄昏』の中で、ノーマンの台詞のひとつひとつが滋味豊かで、巧まざるユーモアにあふれています。人生の「黄昏」を生きる毎日を達観しているのか、悲観しているのか、真面目なのか、ふざけているのかよくわかりません。そこが魅力といえば魅力ではあるのですが。

劇中、ノーマンは磁器を詰め込んだ箱を移動させようとして、気分が悪くなり倒れ込みます。もともと弱かった心臓に負荷がかかったのでしょう。エセルはノーマンに薬を飲ませ介抱しながら、「なぜあんな無理をするの?」とやさしく心配げに尋ねるのですが、ノーマンの返事がすこぶるふるっています。

「お前の気を引こうとした」

どう考えても軽口を叩ける状況ではありませんし、何十年も一緒に暮らしている伴侶にいまさら気を引こうとすることもないでしょう。それでもつい口をついて出てしまうのがノーマンという男なんですね。

考えてみたら、ピンチに際して、ノーマンのようなユーモアに富んだ切り返しができるのは、自分を見失うことなく自制心が働いている証拠でもあります。あるいは、自分を見失わないために、「ありったけのユーモアを発揮する」と言った方が正確かもしれません。そこから冷静に自分の置かれた状況を把握し、落ち着いて次の一手を考え、行動に移せるのです。

ときとして訪れる人生の危難を楽しげに乗り切る知恵は、ユーモアを尊ぶ精神に根付くのではないでしょうか。

ユーモアが好きな僕にとって、おおいに励まされる結論ですが、いかんせん僕のユーモアは、時代錯誤でウケが悪すぎるため、明らかに「黄昏どき」を迎えています。

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